私が通っていた地方の高校で、「5日間肌身離さず持ち続ければ願いが叶う鈴」という奇妙な噂が広がった。
「音を立てぬ霊験の鈴」と呼ばれていた鈴は音が出ない仕組みだけれど、霊感のある者だけがその音を聞けると言われいた。地元の古い神社に祀られていたものだが、いつの間にか無くなっていて行方が分からなくなっていたらしい。
この噂を広めたのは、同じクラスの生徒U美だった。ある日突然、彼女がその鈴を手に入れ、教室で見せびらかしたのが始まり。鈴には特徴的な模様が彫られており、地元の神社の古い記録に記された「音を立てぬ霊験の鈴」と一致しているから、これは本物で願いが叶うというのだ。
広まる噂
U美は「願いが叶う」と喜びがら鈴を持ち歩いていたが、数日も経たないうちに妙なことが起き始めた。
鈴を見せてもらった生徒の一部が、「かすかな音を聞いた」と囁き始めたのだ。そして霊感が強いと言われている生徒たちは皆、何かを怖れたように鈴から視線をそらし、U美も避けるようになった。
日を追うごとにU美の様子がおかしくなり、鈴を手にして3日目あたりから、彼女は怯えたように周囲と目を合わせなくなり、授業中も落ち着きを失っていた。
そして4日目から、U美は学校に来なくなった。
U美
はじめは風邪だと思っていたが、U美の携帯に連絡しても繋がらない。
担任のY先生はU美の安否を心配して彼女の自宅を訪ねたけれど、なぜか「ただの家出だ」と冷たく突き放すばかり。
仕方なくY先生はなにか手がかりがあるのだろうかと、許可をもらって彼女の部屋を見せてもらうと、机の上に奇妙な鈴が置かれているのを見つけた。
その鈴には神社のものと同じ模様が彫られていた。そばには震えた文字で書かれたメモがあった。
「お願い・・・鈴を捨てないで」
両親にその話をすると、さらに冷たい態度になり「そんな鈴は家には無いものだ、持って帰れ!」とあしらわれたので、仕方なく鈴を持ち帰った。
先生たち
翌日から、Y先生も学校に姿を見せなくなる。
電話も通じず、不審に思った同僚がY先生の住むアパートに訪れると玄関のドアが半開きだった。
「Y先生いますか?」
と覗き込むと薄暗い家の奥から微かに鈴の音が聞こえてきた。しかし、部屋には誰もおらず、机の上には例の鈴だけが置かれていた。
不思議に思った彼は鈴を持ち帰えると、その夜から異変を感じ始めた。
微かな鈴の音が聞こえるようになり、それが日を追うごとに近づいてくるようだが、気になるぐらいでどうという事もない。
やがて3日目の夜、耳元で囁く声が聞こえた。
「あなたの願いをなんでも叶えます・・・でも、その代償を払う覚悟はありますか?」
鈴
生徒たちの間で流行っている、本物の「5日間肌身離さず持ち続ければ願いが叶う鈴」だと気がついた。
鈴の持ち主となった彼は、代償が何なのかの恐怖とともに、過去の失敗を取り戻したいという願いに取り憑かれた。
ついに4日目を迎え、その晩、彼の夢に悲壮な顔をしたY先生が現れてこう告げた。
「その鈴は闇に囚われたものだ。川へ沈めなさい。」
願いが叶う5日めの朝がやってきた。
直感的に願いが叶うどころか・・・と察し、目覚めた彼は鈴を持ち川へ向かおうとした。
その瞬間、全身が金縛りに襲われ、部屋中に鈴の音が響き渡り、目の前に消えたはずのU美が現れる。
「こっちに来て・・・」
彼女の顔は青白く、無数の手が彼を深い闇の中へ引き込んでいった。
彼の部屋はもぬけの殻となり、机の上には鈴だけが残されていたという。
鈴は再び災いを招かないように近所の神社におさめることになった。
しかし神社に鈴を持っていった者と共に、鈴の行方も解らない。
※画像はイメージです。
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