カッコ良すぎる漫画の登場だ。今回ご紹介するのは漫画『龍子』(著: エルド吉水)。
文字通り「龍子」という名の女性が活躍するハードボイルド作品。本作は、スタイリッシュで、どこか昭和を思わせる劇画風の絵柄、血と硝煙が香りたつストーリーが特徴。ちょっと近年の漫画では見かけないような風格のある漫画だ。
この『龍子』その貫禄ゆえ、一見とっつきにくい作品である龍子だが、一度ページをめくれば脳のアドレナリンを分泌する部位に直接訴えかけてくる「圧」がある作品。今回はこちらの『龍子』をとりあげ、その魅力に迫ってみよう。
クールでハード!ストイックでハイセンス『龍子』
バキッとした赤いバックにハイコントラストで描かれた、昭和劇画ふうの女性がバイクにまたがっている。
中央には流麗なフォントでドンとデカく「龍子」の文字。これが今回取り上げる漫画、『龍子』の装丁だ。ごちゃごちゃした飾りは一切無し。絵柄と文字、そして色が目を引くストイックなデザイン。
カバーからも作り手の並々ならぬ意志がうかがえる本作だが、気になる内容は、パッケージのストイックさとは裏腹に中々にカオスだ。まず、主人公はそのまんま表紙に描かれている女性、龍子。黒髪が映えるスレンダーな美女だが、眼光は鋭く、ただならぬオーラを感じさせるキャラクター。それもそのはず、龍子は世界を股にかけるマフィア「黒龍会」のボスで、現在はとある中東の国を本拠地に活動している。
ストーリーはそんな龍子の元に、クーデターによって玉座を終われた国王が、幼い娘を伴ってやってくるところから始まる。龍子は王への「義」によってバレルと名付けられた娘を匿い、養育することを約束。マフィアと国王、全く立場が異なる二人が交わした約束が、龍子の、いや世界の黒社会を揺るがす事件に発展するとはこの時誰も知らなかった。というのがざっくりしたあらすじ。
中東のある国で起こったクーデター、日本発祥のマフィア、託された高貴な赤ん坊と、すでに中々のカオスだが、ここから漫画『龍子』はさらに思いもよらぬ方向へハンドルを切っていく。その詳細はぜひ本編で確かめていただくとして、驚くべきはストーリーがどんな急ハンドルを切っても、龍子(あと仲間たち)はとにかくずっとカッコいいところだろう。本作は一応二巻で第一部が完結するコミックである。
にもかかわらず、主人公たちの目的はジャンプ漫画の長期連載作のようにコロコロ変わる。
一応全ては繋がっていて、龍子の血筋に込められたある宿命が主軸となるストーリーが展開していくのだが、普通たった二巻でこんなジェットコースター展開にはならない。そしてこんな急ハンドルを切り続けたら、普通は作中でキャラクターの性格や行動が破綻しそうなもの。しかし、龍子はそうならない。カッコイイやつはずっとカッコいいままなのだ。そういう意味で、龍子は真のカッコいいコミック。真のハードボイルド漫画と言っても過言ではない。漫画『龍子』は令和の世にあって、真のカッコ良さを浴びることができる漫画なのかもしれない。
冴えわたる「義」と「情」のカッコ良さの根源はここ
令和に舞い降りた真にカッコいい漫画。『龍子』。そのカッコよさは、実際にコミックで実感して欲しいのだが、それだけでは放任すぎる。ここからは拙いながら『龍子』のカッコよさ、その奥底にある「義」と「情」の精神に迫っていきたい。まず、『龍子』はかなり作り手の「カッコよさ」へのこだわりが光る漫画だ。
タッチは昭和の劇画風。しかし漫画全体の雰囲気は現代的なところもあり、古臭くは感じない。では、無理やり往年の流行をリバイバルしたものかと言われるとそうではなく、かつてあった古き良き時代へのリスペクトを感じさせる。古いものと新しいものが絶妙なバランスで画面いっぱいに混ざり合っているのが本作、『龍子』という漫画なのだ。古き良きエンタメの伝統と、現代の洗練が生み出すカオスなカッコ良さ。
それが最も発揮されているのが、本作の根底に流れる「義」と「情」の精神だろう。「義」と「情」。いきなり何を言い出すのかと思われたかもしれない。
だが、この精神は本作のカッコよさの核と言っていいものなのだ。漫画『龍子』は基本的に血しぶきが舞い、硝煙香りたつ、暴力満載の作品だ。ただし、その暴力はどこかスタイリッシュで軽快。重さはなく乾いている。
だがその一方で、本作は古い任侠映画や時代劇に見られた「義」の精神、そして親子、兄弟、血のつながらない「ファミリー」の絆を嫌というほど押し出してくる作品でもある。特に血縁関係のある無しを問わない「家族」関係は、本作でキャラクターやシチュエーションを変えて幾度となく描かれ、最終的に主人公龍子が負った悲しい宿命につながっていく大テーマ。
言ってしまえば、本作の根底ある「義」と「情」とは、ひとつ間違えばお涙頂戴にも愛憎劇にもなる、重くてじっとりした感情と言える。しかし、本作はそれらを軽快で乾いた暴力でくるみ、手品のように私たちの前に差し出してくるのが本作なのだ。スタイリッシュなフォーマットでお出しされる泥臭い「義」と「情」。
クールに敵を薙ぎ払うキャラクターたちが負った悲哀。それらが合わさって生み出されたのが、『龍子』という作品のカッコよさなのだろう。『龍子』は、昭和の泥くささとスタイリッシュが融合した、唯一無二の輝きを放つ「ネオ任侠もの」と言えるのではないだろうか。
漫画『龍子』
さて、今回ご紹介した漫画『龍子』は、スタイリッシュでいて泥臭く、ドライなようでウェットな漫画作品だ。
ポップでカジュアルな作品では決してないが、連綿と現代まで受け継がれてきた「カッコ良さ」の精神が光る作品でもある。
かなり高カロリーな読み応えで、さくっと読むのには向かないが、読後の満足度は高い。気になった方はぜひチャレンジして、血と硝煙と義と情が絡み合うカオスに身を投じてみてはいかがだろうか。
(C) エルド吉水 リイド社


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