相模湖沿いの国道20号線を走っていると、湖畔に異様な巨大建築が見えてくる。
それがホテルローヤルA館。
閉業後は、存在感のある外観から悪魔城とも呼ばれ、関東屈指の心霊スポットとして知られるようになる。
建物は10階建てのラブホテルで、1階は受付、2階から9階は客室、最上階には相模湖を一望できる中華レストランがあり、湖畔の景色を眺めながら食事ができた。
開業当初は「ホテル天湖」で営業していたが、1990年代頃に「相模湖ローヤルA館」へ改名された。
なお、B館は相模湖を挟んだ反対側に存在していた。
営業当時から囁かれていた噂
このラブホには、営業当時から奇妙な噂があった。
まだ「ホテル天湖」という名前だった頃、一人の女性が幼い子供を連れて最上階の中華レストランを訪れた後、相模湖で子供と共に入水自殺をしたという話である。
真偽は不明だが、これがきっかけとなってホテル名を変更し、地元では「事件以降、ホテルで妙な現象が起きるようになった」と囁かれていた。
深夜、誰もいないはずの部屋から突然シャワーの音が聞こえる。
高層階にも関わらず、窓を叩く音がする。
廊下で全身ずぶ濡れの女を見たという話や、泣いている子供を見かけたという話もあった。
そうした噂は徐々に広がり、いつしかホテルは心霊スポットとして扱われるようになっていく。
やがて客足は減少し、ホテルは2008年に閉業したというのだ。
たしかに、ホテルローヤルA館は「幽霊が出る」という話があったと思う。
ただ1990年代、実際に何度か利用した側からすれば、閉業した理由が本当に心霊の噂だったのかと言われると少し違う気もする。
まず立地だ。
国道20号線沿いにあり、相模湖のすぐ脇というインパクトのある場所ではあったが、ラブホテルとして見ると、そこまで条件が良かったとは思えない。
相模湖周辺には対岸側にラブホテル街が存在していたし、ローヤルA館はそこから少し離れていた。
とはいえ、相模湖へ突き出すような場所に建っていたため、トンネル脇からホテルへ入れる構造になっており、人目を避けやすいという点が気に入っていたことは確かだ。
最上階には中華レストランがあり、薬膳料理を売りにしていたが、値段の割に美味しかった記憶はない。
景色や雰囲気込みで、強気な価格設定だった。
客室は特別狭いわけではなかったが、全体的に妙なバブル時代の空気が残っていた。
あの頃特有の奇妙なセンスの内装で、高級感を意識していたのだと思うが、妙に落ち着かない印象だったのを覚えている。それに致命傷だったのが虫、特に夏場が酷かった。窓を開ける事はないが、どこからともなく侵入してきて気持ちが悪い。
正直、営業当時から人気があったとは思えない。
それが本当の理由だと思う。
ただし一度だけ、不可解な体験をした事がある。
ホテルローヤルA館へ泊まった時の話
ホテルローヤルA館がまだ営業していた頃の話だ。
当時付き合っていた彼女とデートの流れから、このホテルで休憩をすることにした。
まだ営業自体は普通にしていた時代で、全盛期だったと思う。
ただ、妙に静かだった。
客が少なかったのか、廊下にもほとんど気配がない。
ラブホテルだから、そういった雰囲気が当たり前なのかもしれないが、何とも言えない感じがしたのを覚えている。
このホテルに「出る」という噂がある事は以前から知っていたが、当時の私はそんな話を本気では信じていなかった。
しかし、ラブホテルではあるが、いわゆるラブホテル街からは少し離れていて、相模湖の湖畔にぽつんと建っている。
しかも甲州街道から、するっと入れる立地だったため、人目を気にせず入りやすく妙に都合が良かった。
湖畔沿いというシチュエーションもあり、ある種ロマンチックな雰囲気のあるホテルだったと思える。
何階かまでは覚えていないが、かなり上の部屋を選んだ。
夕食は済ませていたため、最上階の中華レストランは利用しなかった。
以前、入った事があるが、薬膳中華という珍しさはあったものの、正直かなり高かった割に味は微妙。
ただ、相模湖を見下ろすロケーションもあり、当時としてはちょっと高級という空気を演出するにはもってこいで、話題作りにはぴったりなロケーション、高級さもあってちょっとした見栄もはれる。
部屋へ入ってしばらくすると、彼女が小さな声で言った。
「子供の声しない?」
ラブホテルに子供がいるという状況自体がおかしい。
でも、言われてみれば、微かに子供の笑い声のようなものが聞こえる気もした。
だが当時の私は若く、正直それどころではなかった。
早く行為をはじめたい一心から、
「隣の部屋でテレビでもつけてるんじゃない?」
そう言って適当に流した。
その直後、妙に見られている感じがした。
ただ、彼女には気付かれないようにしていた。
変に怖がらせて空気を壊したくなかったからだ。
その後、一緒にシャワーを浴び、部屋へ戻って、お楽しみタイムに突入。
ひと通り終わって、落ち着き、真っ暗な部屋の中で二人で余韻を楽しんでいた時。
出入り口付近に、誰かが立っているように見えた。
最初は目の錯覚かと思ったが、たしかに暗闇の中に、人影のようなモノが立っている。
鍵は自動で閉まる構造だったし、従業員が入ってくるはずもない。
なのに、何かがいるようにしか見えず、不意にその影と目が合った気がした。
あの瞬間の嫌な感じは、今でも忘れられない。
正直かなり気味が悪かった。
だが、ここで怯えれば彼女にも伝わる。
下手をすれば「なんでこんな気味の悪いホテルに連れてきたの」と責められ、最悪、振られてしまう。
ごまかす方法として、気分を盛り上げて、お楽しみタイムに再突入して、その場をごまかす事に成功。
休憩時間が終わり、ホテルを出た。
帰りの車の中で、私は気付かれずに、良いことができた悦に浸っていた。
すると彼女が、唐突に言った。
「私、ちょっと霊感あるんだよね」
嫌な予感がした。
話を聞くと、彼女も部屋の中で何かを見たらしい。
「あそこ、幽霊いたよね」と軽い調子で話してきた。
「でも、あなた全然気付いてなかったし、雰囲気壊したくなかったから言わなかった」
私は適当にごまかしたが、内心かなり動揺していた。
別れ際、彼女はこう言った。
「もう二度と、あのホテルには行きたくない」
私も同感だった。
その後、彼女とはしばらく付き合いが続いたが、ホテルが閉業して少し経った頃に別れたため、それ以上、ホテルを利用する事はなかった。
今も存在し語られる相模湖の怪異
ホテルローヤルA館は閉業後、その異様な建物と目立つ立地もあって、廃墟マニアの間で話題になった。
やがてインターネット上でも心霊スポットとして語られるようになり、現在では関東最恐クラスの心霊スポットとして名前が挙がる事も多い。
もちろん、そうした噂の真偽は分からない。
営業不振や立地の問題、時代の流れなど、閉業には現実的な理由もあったのだと思う。
ただ、少なくとも私は、あのホテルで妙な体験をしている。
※画像はイメージです。


思った事を何でも!ネガティブOK!