僕は幽霊が見える。いや、正確には「見えてしまう」と言うべきか。
これを「霊能力」と呼ぶのかどうかは議論の余地があるが、僕にとってそれは単なる日常だ。世の中の人々が目に見えない存在に怯える中、僕は彼らとしっかり目を合わせて話すことができる。
さて、これは僕が自宅で経験した出来事について語る話だ。
その日、僕は珍しく静かな夜を過ごしていた。こんな僕でも、たまには普通の人間のようにソファで本を読んでみたくなるのだ。ページをめくる音が部屋に心地よく響く。
そんなときだった。
視線を感じたのだ。
僕は呆れながら顔を上げた。案の定、部屋の隅、クローゼットの前にいた。何ともまあ、ベタすぎる登場だ。
足元にはぼろぼろになった着物が引きずられ、長い髪が顔を覆っている。お約束の「幽霊」だ。
「あのさ、出るならもっとタイミングを考えてくれないか?こっちは忙しいんだよ。」
もちろん、返事なんてなく、ただじっと僕を見ている。いや、見ているように感じると言ったほうが正しい。髪の隙間からのぞく目が、虚ろな光を放っていた。
僕は本を閉じて、ため息をつく。
「さて、どうする?」
幽霊はふっと一歩前に出た。その動きが妙に流れるようで、地面から浮いている。僕は、わざと冷静な顔を保ちながら言葉を続けた。
「名前くらい教えてくれる?いや、それとも自己紹介が嫌いなタイプ?」
すると彼女は首を傾げた。いや、正確には首を「曲げた」。通常の角度を超えたその動きに、僕は思わず苦笑を浮かべる。こういうのを「怖い」と感じる人間がいるのは理解できる。でも、僕にとってはただのギャグでしかない。
だが次の瞬間、彼女は消えた。そして、すぐ目の前に現れた。
彼女の顔は近い。冷たい風が頬を撫でるようだった。その口がゆっくりと動く。言葉は発せられないが、僕には何を言いたいのか理解できた。
「ここから、出て行け。」
僕は軽く肩をすくめた。
「馬鹿め!ここは僕の家だ。」
幽霊がどれほど不満げに見えるかという点で言えば、相当に不機嫌そうだった。だが、僕は怯えない。
何と言っても、僕はこの手の場面に慣れすぎている。
そして、こうしている間にも彼女の姿は薄れていった。結局、彼女のような幽霊は怒りや悲しみの残滓に過ぎない。それに反応して動いているだけなのだ。
「クソが。こっちも忙しいんだからさ。」
※画像はイメージです。
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