「夢の」エネルギーとされる原子力。
エンターテインメントの世界では、更にその可能性が大きく飛躍した「核融合」までもすっかり定着したかのように描かれる昨今ですが、現実では未だ「大きな困難」を抱えながら実用性と危険性がせめぎ合う領域となっています。
その最たるが「放射線」の存在であり、エンターテインメントの世界では「何らかの特殊な事情」によって強力な対策が成立したり、そもそも発生しないような振る舞いを見せる事で文字通り「夢のような」進歩を遂げるものとなっています。
一方で、人間をおぞましくも強力な力を持つ変異者に作り替えてしまう呪いめいた力として描かれるなど、その「恐ろしさ」に焦点が当てられる事も珍しくありません。
この現実に存在しながら、恐ろしくも怪しい扱いを受ける奇妙な存在に「一歩踏み込む」事で変わる見え方もあるのではないかと思い、似た存在である「電磁波」と共に取り上げてみようと思います!
放射線、放射能・・・それが一体何なのか?
エンターテインメントの世界では、古くは「超人ハルク」や「ゴジラ」を生み出した禍々しい力として描かれます。
或いは「その存在を無くする事」で進化の階梯を登る「厄介者」と見做され、現実では原子力の悪しき副産物として取り沙汰される一方、その性質で医療や科学に貢献する事もある。
という実に多彩で複雑な姿を見せるのが「放射線」という存在です。
この「放射線」に「(どのような形であれ)さらされる」事を「被曝」と言い、何らかの爆発物の被害を受ける事…慣習上「核爆弾」の被害を受けた事を「被爆」と言います。
いずれも「ヒバク」という音であり、字としても非常によく似ている事から、恐らくは通用している「被曝(さらされる事)」の意味を含む形で定着した部分があると考えられます。
つまり水爆実験の影響で目覚めたとされる「ゴジラ」は「被爆」の産物で「超人ハルク」は放射線「被曝」によって変質を起こした存在という事になります。
この「放射線」について、字面の上からも似通った言葉として扱われるのが「放射能」です。
放射線と放射能
「放射線」と「放射能」の関係は、光で言い換えると「光」と「光源」の関係性に近いものと言う事が出来ます。
即ち「放射線」とは「放射線源から発せられる特定波長のエネルギー」であり「放射能」とは「放射線を発する能力」を意味します。そして「放射能を持った(含んだ)物質」が「放射性物質」であり、核燃料や高レベル放射性廃棄物等が該当するものとなります。
以上を踏まえると「放射線」とは「放射能」を持つ「(放射性)物質」から発せられるもので、それに「曝される」事で影響を受けるものである…という事が見えて来ます。
つまり「放射線」は、ある種「光線」や「熱線」のように、何らかの「線源=放射性物質」から発せられ、曝されたものへ影響を与えるという事でも「光や熱のようなもの」であるという事になります。
実の所「放射性物質」の一部には「燐光」や「蛍光」と呼ばれる発光現象を起こすもの。女性初のノーベル賞受賞者として知られるマリ・キュリーによる「(放射性)ラジウム」の報告や、蛍光塗料として用いられていた「ウラン顔料」等が有名…もあり、一部の「放射性物質」においてある種の発光現象が見られる場合もあります。
エネルギー入力を受けた「反応」
これらの発光現象は外部からエネルギー入力を受けた「反応」として起こるもので、厳密には「放射」と異なる仕組みとなります。類似性として「(何らかの理由で)不安定な物質が余剰エネルギーを放出する事で安定しようとする働き」に根差した現象であると言える部分があります。
この部分が「放射線」がどのような存在であるのかを示す要諦であり、即ち「不安定な物質(原子)が安定化する為に放出する何らかのエネルギー」というのが、発見の経緯から示される「放射線」の「正体」だと言う事が出来ます。
ちなみにこの「正体」が「厄介な性質」の元になっている部分として「放射線は目に見えず、放射性物質を見た目で判別する事も難しい」という点が指摘されます。
「放射線」は最小単位として「原子から発生する」もので、高純度・多量の「放射性物質」である場合、物質内で高速の反応が連鎖し「崩壊熱」として熱(=熱線)を発する場合もありますが、目に見えないサイズのものでも「大量」「長時間」の被曝によって生体に深刻な損傷を与える場合があります。
更に「放射線」は安定化する=放射するエネルギーが尽きるまで止める事が非常に難しく、しかもその期間というのが物質によって数ヶ月や数年、数十年、長いものでは数億年(?!)というスパンで「放射線」を放射し続けるものもあるというのが問題を深刻にさせています。
この「厄介な性質」を「利用価値」として圧倒的長期間エネルギーを安定して取り出す事の出来るエネルギー源としたり、ごく小さい範囲に強いエネルギーを照射出来る医療や工業等での利用を見出したりという事もありますが、やはり「扱いが難しい」という点で見解は一致するものと言えるでしょう。
めくるめく「エネルギーな」世界へに踏み込んでみます!
「放射線」というものが、ある種の「放射性物質」。「不安定な物質」が「安定化する為に放出するエネルギー」だという事を示しましたが、この「安定」か「不安定」かというのも「放射線」や「放射性物質」というものをややこしくしている部分かもしれません。
これは「原子の構造」に由来するもので、いわゆる「原子模型」で表される「陽子」と「中性子」で構成される「原子核」の周囲を「電子」が周回する、というもので説明が可能です。
「原子核」は「陽子」と「中性子」の引力が釣り合う事で繋がり、この周囲を「電子」が電気的にまとめる事で複雑な物質を形作る事が出来る…というのがごく大雑把な概要となります。
電気や磁石の性質として「同極…プラスマイナスやSN極が同じものは反発する」という性質がありますが、原子を形作るのがその最小単位と言える部分であり、ごく小さい力ながら「物質として安定する/しない」を左右する程度の働きを有します。
つまりこの釣り合いが「崩れて」いるものは「崩れの原因」となっている「陽子」「中性子」「電子」を「放出する(繋ぎ止め切れずに飛んでいってしまう)」事で「安定する形」に落ち着いていく、という流れが「放射性物質(放射性核種)」に起きている現象とされます。
この際「陽子(α線)」を放射するのが「α崩壊」とされ「電子(β線)」を放射するのが「β崩壊」とされます。
(厳密には原子核内で起きている放射性崩壊のパターンから定められる現象ですが、ここでは「現象的に分かりやすい」見方を採りました)
なお「中性子」を放射するのが「γ線」…ではなく「陽子」や「電子」を放射してもまだ余分なエネルギーが残ってしまった原子核が「電磁波」としてその余分なエネルギーを放射するのが「γ線」とされます。
(中性子を放射するのは、そのまま「中性子放出」と呼ばれます。この差は中性子の発見がα線やβ線、γ線より後になった事などが事情として考えられます)
余分なエネルギー
「蛍光」や「燐光」を「近しい現象」とするのが、この「余分なエネルギー」を蓄え、原子核から放射出来る仕組みである「励起」と「放射」に基づく現象という点に共通性が見られます。
そして、実はこの「γ線」が「電磁波」であるという事実は「放射線」と呼ばれたものの一部も「電磁波」に含まれるという事を示します。
「電磁波」は波長の長さによってその働きが定まるもので、良く知られているのは「(可視)光」の「スペクトル」…虹の色が七色に分かれて見えるものが挙げられます。
光は波長が変化する事で性質も変わって行きますが、赤よりも波長が長くなったものに赤外線やマイクロ波があり、紫よりも波長が短くなると紫外線、X線、γ線となっていきます。
この混沌とした状況は、歴史的に発見の経緯から起きているもので、α線(α崩壊)、β線(β崩壊)、γ線(γ崩壊)はそれぞれ「放射性崩壊」の研究によって見出されたという経緯から順序立てて名付けられた一方、X線はそれに先んじて「未知の波長を持つ電磁波」として見出された事によってこのように分類される事になったとされます。
故に、現在では研究が進んだ事で整理され、実際に高速粒子を放射しているα線とβ線、陽子線、中性子線を「粒子放射線」、エネルギーを放射しているもの(可視光等も含む)を「電磁放射線」とし、原子核から放射されるものを「γ線」、電子にエネルギーを加える事で放射されるものを「X線」として分類されています。
(但し「γ線」と「X線」については、線源が分からない場合は区別する事が不可能である事から、便宜上波長によって区別する場合もあります)
高い運動エネルギー
そして、これらはいずれも「高速(光速の数%~ほぼ光速まで)で飛翔する」…即ち「高い運動エネルギーを持っている」事で、衝突した対象に「その分のエネルギーを受け渡す」事になります。
これを狙い通りに受け渡すものであれば「原子を高エネルギー状態にして特定波長の光(放射線)を増幅する」という作用によって、医療用や工業用の強力な放射線を作り出したり、或いはそれを患部へ照射して体内の癌細胞を破壊する各種の「粒子線治療」に利用されています。
一方で、この「癌細胞を破壊」出来る「威力」とは、当然生体に対しても有効であり、多量に照射されると細胞レベルでの損傷を持続的且つ大量に発生させる事となり、言わば「見えない傷」を無数につけられる事で様々な障害を負う恐れから最終的には死に至る可能性も有り得る「毒性」ともなります。
α線とβ線、陽子線はこの「威力」の内「電離作用」…電気的な力が強い事から、逆に周囲からの電気的影響も受けやすい為、間に挟む物質の電離作用でブレーキを掛ける事で遮蔽が比較的容易とされます。
他方、原子力において問題とされる「γ線」「X線」は「電磁波」である事からすり抜ける力が強く、分厚いコンクリートや鉛のように「重力で引っ掛ける」ようにして止める必要があるとされます。
更に「中性子」は「電離作用をほぼ持たない」=「何かにぶつからなければ止まらない」という性質がある事から「水(動き回る水素原子が大量に含まれていてぶつかる可能性が高い)」か「コンクリート(多量の水素原子が含まれているので厚さを確保して当たる確率に期待する)」が必要になる…というそれぞれの性質に見合った厳重な対応が必要となります。
「夢」が「夢でなくなる日」
これらが原子力の扱いを難しくしている要因と言えるもので、この影響を「完全に排除」出来るならば原子力が理想的なエネルギー源として次世代を切り拓いていく事にもなり得るのですが、一方で原子力というエネルギー自体が「厄介な要素」そのものに根差しているという事もある為、簡単には行かないというものであるようです。
とは言えその研究は現在に至るも進行しており、かつて「数億年」というスパンでも語られた放射性物質の廃棄について、高レベルの放射性物質を廃棄物から抽出し、中性子を照射する事で崩壊を加速させ、安全と言えるレベルにまで放射能が低下する年限を「500年」程度にまで短縮する事が可能性として出来つつあるとされています。
未だ研究発展途上にある「放射線」の世界が、いずれは「安全な原子力」という「夢」が「夢でなくなる日」も訪れる事を期待したくなるものです。
※画像はイメージです。
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