脈々と続くと思われた日常はある日、炎に燃やし尽くされてしまった。
1996年9月、夢への第1歩となる留学を目前に、その人生を無残にも切り落とされてしまった女性がいる。
不審者の目撃情報に遺留品はあるものの犯人は未だに見つからず、時間のみが流れて行ってしまっている無情な状況。
一体なぜ女性は希望に溢れたこのタイミングで殺されなければならなかったのか。
火災事故は放火殺人事件へ~事件概要
事件発覚のきっかけは1件の119番通報だった。
1996年9月9日、この日はあいにくの雨模様で午後にかけてさらに雨脚が強くなっていた。16:40頃、東京都葛飾区柴又のとある住宅から「隣家が燃えている」という通報が入る。
現場の住宅は京成電鉄金町線柴又駅から北西250mほど離れた場所に位置していた。
葛飾区柴又といえば、柴又帝釈天や矢切の渡しが有名な東京下町の観光スポットだが、火災現場となった家屋はそういった喧騒からは離れた閑静な住宅街の中にあった。
通報を受け、消防は現場に急行。
火は約2時間で消し止められたものの、焼け跡からは残念ながら若い女性の遺体が見つかった。
火災現場から遺体が見つかる。
この一文だけ読めば、火災によって亡くなったと想像するのが定石だろう。
しかし、遺体の手足が縛られていた上、顔や首に刺し傷があったことが確認されると状況は一変。
彼女は不運な火災事故による死者から、殺人事件に巻き込まれた不幸な被害者であることが判明してしまったのだ。
被害者と彼女の直前までの行動
この事件によって殺害されたのは小林順子さん、当時21歳。
両親と姉との4人家族で上智大学外国語学部英語学科4年生に在籍する優秀な女子大学生だった。
順子さんはジャーナリストを志しており、火災の翌々日、1996年9月11日にはアメリカのシアトルにある大学でジャーナリズムを学ぶため留学予定だった。
長期の休みには得意の英語を小中学生に教えるボランティアにも携わっており、子供たちにも慕われていたようだ。
また、留学前には大学の友人やアルバイト先の同僚らに送別会も開いてもらっていて周囲にも恵まれたタイプであったことがうかがえる。
優しさと行動力を兼ね備え、夢に向かって突き進む強い意志をもった女性であったと思われ、一目にはトラブルの気配もない。
事件当日の9月9日、順子さんは東京都葛飾区柴又の自宅にいた。
父親は遠方へ出張、姉は仕事に出かけており、さらに15:50頃、順子さんを除いた家族の中で唯一在宅していた母親も仕事に出かける。この時、順子さんは母親に「自転車ででかけるの?」と声をかけており、この会話が彼女の無事を確認できた最後となってしまった。
なお、家族によればこの後、自宅に来客の予定などはなく、順子さんは1人で自宅にいたとみられている。
留学2日前、女子大生非業の死
自宅の2階から見つかった順子さんの遺体には顔や首に鋭利な刃物で刺されたとみられる跡が複数あり相当量の血を流したことによって死亡したことが判明する。
この時、凶器となった刃物は見つかっていないが、傷の形状などから刃渡り8㎝以上で刃幅が約3㎝、先が尖った果物ナイフやペティナイフのような刃物と推定されている。
手には防御創も残されており、犯人に対して相当の抵抗をしたことが見てとれた。
また遺体は、口は粘着テープで塞がれ、両手は粘着テープ、両足はストッキングでそれぞれ縛られていたが、防御創の上から粘着テープが貼られていたため、これらは殺害前ではなく順子さん殺害後に犯人が縛り上げたものとみられている。
犯人は順子さんを2階の両親の部屋の布団に寝かせ、上から掛布団をかけると1階に移動。
遺体が寝かされた両親の部屋の真下にある居間と、居間とは台所や風呂場を挟んで反対側にあった1階の和室にマッチで火をつけた後に現場を離れたとみられている。
15:50頃の母親の外出から16:40頃の119番通報まで約50分。
犯人が自宅に侵入してから抵抗する順子さんを殺害した上で自宅に火をつけてその場から逃走するまで約50分足らず。
かなりの早業といえる犯行だった。
結ばれない証拠たち
火事という事故は殺人、加えて放火という重大事件へと変貌した。
警察・消防の調べにより、焼け跡からは遺留品も複数見つかっている。
1つが被害者の口を塞ぎ、手を縛った粘着テープ。そしてもう1つがマッチ箱だ。
粘着テープはもともと小林さん宅にあったものではないことが確認され、犯人によって持ち込まれたことがわかっている。この粘着テープ、国内で製造されたことが分かっているものの、いわゆる大量生産品で全国に流通しており、粘着テープ自体が購入者の特定や絞り込みに結び付く品とはならなかった。
世田谷一家殺人事件でも、遺留品の多さのわりにそのほとんどが量販店やスーパーで入手できるものばかりだったことが捜査難航の一因となっていると見られている。
大量生産・大量消費時代の弊害とも言えるだろう。
わかったこともある。
この粘着テープには3種類の異なる犬の毛が付着しており、犯人は犬を多頭飼いしている(していた)、またはたくさんの犬と過ごす環境下にいたとみられている。
一方、マッチ箱は元々小林さん宅にあったもので、本来は順子さんの遺体が寝かせられていた2階の両親の部屋にあった仏壇に置かれていたものだった。しかし、マッチ箱は1階の玄関付近で見つかったため、犯人はこのマッチで放火に及んだとみられている。
このマッチ箱にはA型の血液と繊維片が付着していたことが判明している。
順子さん本人も家族も血液型はA型ではなかった。
加えて後の捜査で順子さんが寝かされていた布団にもA型の血液が付着していたことがわかっており、このA型の血液が犯人の血液であると考えられると同時に犯行時に犯人がなんらかの傷を負っていたことがわかる。
また、手で扱うマッチ箱に繊維片が付着していたことから犯人が手袋をつけて犯行に及んだ可能性があるとも考えられる。
目撃情報
事件発生前後、現場近くでは不審人物の目撃情報が多数上がっている。
その中で警察が特定できず、広く情報を募っている人間がいる。
2020年に情報提供があった人物で、事件直前の9日15:30から16:00頃にかけて、小林さん宅周辺をうろついていたとされている男だ。
この男は事件当日の15:30頃、小林さん宅のすぐそばの十字路付近で黒い傘をさして立っていた。
身長は150㎝から160㎝で体格はやせ型。
ぱっと見、男性としては小柄な印象を与えるのではないだろうか。
男は身の丈には少々大きく思える黄土色の襟付きコートに黒っぽいスウェットとみられるズボンを着ていたという。
この人物は別の証言の中で、同様の格好の男が15:55頃に傘もささずに小林さん宅前に立ち、家を見つめていたという目撃事例もあがっている。
時系列があっていれば、順子さんの母親が15:50頃に仕事に出かけた直後の出来事と考えられる。
さしていたはずの黒い傘はどこへ消えたのかという疑問点もあるが、服装などの特徴から警察は同一人物とにらんでいるようで、さらなる情報提供を募っている。
なお、この男と似た特徴を持つ人物が、小林さん宅の最寄り駅であった柴又駅の1つ隣の京成高砂駅付近で9日の午前中に柴又3丁目への行き方を尋ねていたという証言もある。
もしもこの男が犯人だとすれば、無差別に小林家が狙われたのではなく、ある程度の目星があって狙われたことになるだろう。また、事件当時の報道によれば、16:30頃に雨の中傘を差さずに事件現場付近から柴又駅方向に走り去る20代から30代とみられる白い手袋をした男の目撃情報もある。
小林さん宅で見つかった粘着テープに残された繊維片から犯人が手袋を着用したことが疑われる中、怪しい人物であると言えるだろう。
その他にも複数の不審人物の目撃情報が寄せられているものの、その中に本当に犯人が含まれているのかは現在も不明な状況が続いている。
考えられる犯行の目的
さて、この事件はいまだその目的もはっきりとわかっていない。
ここで犯人が小林さん宅にやって来た目的・理由について考えてみたい。
物取り目的
小林さん宅に金品の強奪のために侵入した可能性だ。
この場合、小林さん宅にあらかじめ目星をつけて強盗に入った可能性と、周辺住宅を物色する中で、たまたま小林さん宅に入った2種類の可能性が。さらに小林さん一家と顔見知りである人物、さらには知らなかった人物の2種類の可能性がでてくる。
もしも物取り目的なら、おそらくは顔見知りによる犯行だろう。
警視庁HPで公開されている焼失以前の小林さん宅を見る限り、私見にはなるが見た目は周囲の住宅と比べても大きさや豪華さで差異があるようには見えず、外観から「金がありそうな家だ」と判断することは難しいように思えるからだ。
4人家族のうち3人は働いている、娘が留学予定であるなど、ある程度小林さん一家の懐事情を知っている人物なら、この家は裕福だと判断できる要素がある(就労人口の多さや留学費用から裕福と考えるのもいささか短絡的判断ではあるが)。
ただ、この物取りの可能性は捜査上であまり重視されていないように思われる。
それは小林さん宅に物色された形跡はあったものの、盗まれたのが引き出しにしまい込まれていた旧1万円札1枚だけだったためだ。
洋服ダンスの中には預金通帳が、順子さんが用意した留学用のリュックサックには10万円を超える現金やトラベラーズチェックがあったにも関わらず、である。
盗られたものがこの1点だけだと、殺人という犯行の真の目的を隠すために物取りを装ったようにも見える。
放火目的
怨恨などの理由から小林さん宅に火を点けることが第1の目的で家を訪れた可能性だ。
本来、放火が目的なら家の中に入る必要はないのだが、ついでに金目の物をいただこうなどと2次的に他の犯行を企てた場合や家人に目撃されてしまい突発的に殺害したという場合もこの目的に含まれる。
この場合も小林さん一家、あるいは家族のうちの誰かに対して恨みを抱いて放火を計画した可能性とどの家でもいいから火を点けたいという放火魔であった可能性の2種類がある。
ただ、現時点の情報から考えるに放火目的の可能性は低いだろう。
理由は放火目的だった場合の犯人の準備や計画のお粗末さだ。
犯人が小林さん宅に火を点けるのに使ったのは家にあったマッチであり、犯人自身がライターなどの着火装置を持っていた可能性は低い。
さらに事件当日の天候は雨。
犯行時刻には雨脚もより激しいものとなっており、放火に適した環境とは言いづらい。
時刻の話をさらに掘り下げるなら、平日の夕方16時という、まだ日もあって買い物帰りの主婦や学生らの下校時刻という誰かに目撃されやすい時間帯に放火を企てるのも首をかしげる話だ。
やはり、放火自体は予定外に起きてしまった犯行と考えるのが妥当だろう。
暴行目的
犯人が順子さん自身に何らかの好意を抱いており、その行為を順子さん本人に何らかの方法で伝えるために家に押し入った可能性だ。
交際を迫る、誘拐する、強姦するなどの目的を暴行目的と表現した。
今回の犯行がタイミング的に順子さんの留学が目前に迫った時期であることも、犯人が順子さんと物理的距離が離れることから焦って犯行に及んだのではないかと考えられる所以である。
犯人が犯行にあたって所持していたことがわかっている持参品がガムテープと刃物という人を傷つけよう、拘束しようという目的を感じさせる物であることからも、事件が暴行目的であるような印象を受ける。
実際、順子さんは事件以前の8月末に行われた自身の送別会の帰り道で男につけられていた。
この男が顔見知りなのかそうでないのか、この前後もつきまとわれるようなことがあったのかなどの詳細や、この男と警察が重点的に情報収集している黄土色のコートの男が同一人物なのかは不明だ。
しかし、今回の事件で犯人が順子さんに対して実際に性的な暴行を働いた形跡は見つからなかった。
犯人は顔見知り?
犯行の目的は不明であるものの、犯人の可能性として考えられるのが、少なくとも顔見知りによる犯行であったのではないかという点だ。
物取り目的であるなら、小林さん宅が金銭的に裕福(なように見える)であることを知っていなければ。
放火目的の犯行であるなら、雨で夕方という誰かに目撃されるおそれがある悪状況下でも犯行に及ぶという強い意志がなければ。
暴行目的であるなら、他の家族の予定を知り順子さんが1人で家にいることや彼女の行動パターンを知っていなければ、犯行が成立する可能性が低いからだ。
いずれの犯行理由であっても、家の中で順子さんと遭遇した際、顔見知りでないなら罪を犯す前にその場から逃げたほうが得策だ。
順子さんを殺害したのも、彼女に顔を見られてしまい言い逃れができなくなったことが原因なのではないだろうか。
不自然な点
犯行時間も短く、スムーズにことが進んだようにも見えるこの事件ではあるが、不自然な点もある。
今回は筆者の考える不自然な点を3つほど検討していきたい。
手足の拘束
1つ目が順子さんの手足を拘束したタイミングだ。
物取りや順子さん自身に危害を加えるために犯行に及んだ場合、もしも自分が犯人なら彼女を凶器で脅して生きている段階で先に手足を縛り、口をふさぐ。
目的とした犯行を終えた後、彼女を開放するか永遠に口を閉ざしてもらうかは後の問題だ。
そして確実に彼女を死に至らしめたいと思ったなら、拘束したそのまま殺害し、死亡したかどうかを確認すればいい。
しかし、この事件では順子さん殺害後に手足を粘着テープとストッキングで縛り、口を粘着テープでふさいでいる。
これはいったい何の理由があってのことだったのだろうか。
考えられるのは、順子さん殺害が予定外に発生したトラブルで脅迫、拘束の準備をする前に彼女ともみあいになり殺してしまった。
さらに犯人は順子さんが死亡しているか自信をもてなかったため、念のために縛ったという可能性だ。
犯人が現場を離れる際に自宅に火を放ったのも、犯人逃走時にもしも順子さんが生存していたとしても火災によって確実に死亡するように仕向けたのではないだろうか。
ここから推察できる犯人像として、順子さんや小林さん一家に明確な殺意をもって近づいたというよりは、犯人にとって順子さん殺害は偶然の出来事であり、気が動転、あるいは殺人を犯した恐怖心から順子さんの死を確かめることができず、それでも自身の犯行の証拠をできる限り消すために家に火をつけたのではないかと推察できる。
火を点けた場所
もう1点の不審な点として、火を点けるために使われたマッチは順子さんの遺体が置かれた2階の部屋で見つけたにも関わらず、実際に火を点けたのは1階の2つの部屋だった点だ。
火を点けることによって消したい何かが1階にあったとも考えられるが、この場合最も消したいものは順子さんの遺体だったはずである。
火災による遺体の損傷が激しければ激しいほど、犯行が露呈する時間を稼げるはずだからだ。
そうであるにも関わらず、わざわざ1階に火を点けたのは、殺人という現実への恐怖から遺体を直視できず、かろうじて1階に火を点けてその場を離れたからではないだろうか。
遺体にかけられた布団
順子さんの遺体はわざわざ布団に寝かされ、頭から掛布団をかぶせられていた。
もしも殺人を犯した場合、安全に逃げ切るために優先すべきは証拠の隠ぺいと至急現場を離れることだろう。
では、なぜ犯人はこのような手間のかかることをしたのだろうか。
理由について考えられる点が2つある。
1つは「被害者の死を悼んだ」というものだ。
一見すると、自分で殺しておいて直後にその死を悼むというのは矛盾しているように思える。
犯罪心理学の1つとして、犯行後、被害者に対して敬意という感情が芽生えることがあるという。
この心理現象は特に犯人と被害者が顔見知り以上の関係だった際に起こりやすいようだ。
残された遺族から見れば「ならなぜ殺したのか」と叫びだしたい気持ちにもなるだろう。
これは一種の後悔のようなもの。
犯行後、例えば被害者との間にあった好意的な記憶が思い起こされたり、遺族に対しての罪悪感が沸いたり、あまりの非現実にふと我に返り、犯行を後悔する気持ちが生まれることがあるのだろう。
そのような後悔がその場できるせめてもの償いとして、いわゆる安らかな死の形の定型の1つとしてある「布団の上で死ぬ」を再現してみているのではないか。
もう1つが犯人の現実逃避だ。
突発的に無計画に人を殺めてしまった場合、被害者を布団の上に寝かせることで、「この人は殺されたのではなく、自分とは関係のない理由で亡くなったのだ」と自己暗示をかけ、殺人という犯した罪の現実から逃れようとしているのだ。
特に今回、犯人は順子さんの顔にまで布団をかけている。
これは順子さんの死に顔を見ることがないように、という行動なのではないかと感じられる。
もしもこれが理由なのだとしたら、犯人が自分の犯行に対して大きな恐怖のようなものを抱いていたように思える。
犯人像考察
犯行の目的や不可思議な点を辿ったところで、では犯人はどのような人物なのかということを筆者なりに推察していきたい。
犯人像を絞り込む上で注目したいのが、犯人が犯行時に所持していたと考えられているのがガムテープと刃物だった点だ。
なんらかの恨みを晴らすための放火であれば、ライターやマッチなどを準備しているはずだが犯人が火を点ける際に使用したのが小林さん宅にあったマッチであることを考えると何らかの着火剤を持っていた可能性は低いだろう。
せっかく用意・計画したにも関わらず、人1人殺して盗んだ収穫が使えば目立つ旧1万円札1枚ではわりにあわない。
さらに順子さん殺害後の行動から犯人はこのような人物ではないだろうかと推察する。
犯人の男は、順子さんに一方的で独りよがりな好意、執着を抱いている人物だった。
順子さんの彼に対する認知度のほどはわからないが、順子さんの人柄や留学の予定、そして自宅の場所を把握していたことを考えると、少なくともお互いに顔くらいは見知った仲であったのではないだろうか。
男は留学を控える順子さんと物理的距離が生まれることに対して、切迫した危機感を持っており、名前のつかない関係性である現状を打破したいと考え、その思いは暴走し始めついに刃物や拘束用のガムテープで武装した上で順子さんに迫ることを企てる。
計画当日、彼女への強い思いと自らの計画がもはや犯罪であるという常識的な観念の間で揺れながら小林家周辺をうろうろと見張るうちに、母親の外出を見届け、順子さんが自宅に1人である可能性が高いことを確認した犯人はついに自宅に上がり込む。
おそらくインターホンを鳴らすなど、一般的な方法で訪問したのだろう。
順子さんには「近くに用事があったから、留学前に最後の挨拶を」などと言ってまんまと自宅にあげてもらったのではないだろうか。
そこで自らの想いを吐露するが受け入れてはもらえない。
あるいは2階にある部屋に入れてもらった段階でいきなりだったのかもしれない。
感情のままに男は順子さんに襲い掛かる。
夢への1歩となる留学、その先の未来だってあるのだ、彼女は必死に抗ったのだろう。
しかし、抵抗もむなしく順子さんは殺されてしまう。
事切れた順子さんを見て動揺したのは男のほうだ。
順子さんにとっては暴力的で迷惑なものであっても、男の目的は好意を伝えることであり、彼女を殺すことではなかったのだから。
そういった意味では、男の計画はかなり杜撰だったと言えるだろう。
焦りと恐怖で錯乱しながらも、男は殺人という現実と犯罪者として捕らえられ罰せられる恐怖から逃げるために行動を起こした。
本当に順子さんが死んでしまったのか確かめるのも恐ろしいがせめてもの償いとして、彼女を布団まで運び、死に顔を見なくて済むように上から布団をかぶせた。
さらに計ったのが現実と証拠の隠滅だ。
仏壇を探し当ててマッチを拝借すると逃げ腰ながら家に火を点ける。
念のため2か所。
本当は1番消してしまいたい順子さんの遺体がある部屋に火を点けるべきだが、その勇気は出なかった。
火を点けた後はとにかくその場から逃げだすことだけだ。
そして今日に至る。
人を殺し、家を燃やすという極悪を煮詰めたような犯行だが、ふたを開けてみれば小心と場当たり的な行動が結果的に作り出してしまったなんともむなしい犯罪だったのではないだろうかと思う。
あくまで個人的な推察ではある。
事件を解決に導くために
本事件のご遺族は定期的に事件現場付近などで情報提供を募るチラシを配り、犯罪被害者遺族の会を立ち上げ殺人事件の時効撤廃活動にも取り組むなど、自身の娘を奪われた真相を解明するため、さらには日本に数多存在する未解決事件を解決するために積極的に活動されている。
その原動力は娘の無念を晴らしたいという一念なのだろう。
2026年9月には事件発生から30年を迎える。
もしも順子さんがご存命で、夢を叶えジャーナリストとなっていたら、いくつもの経験を積み1つでも社会を良くするために歩んでいる最中だったのではないだろうか。
残された遺族のためにも、亡くなった順子さんご本人の無念に少しでも報いるためにも、絶対に犯人を逃してはならない。もしも本事件についてなんらかの情報をお持ちの方がいれば、ぜひ警視庁亀有警察署・柴又三丁目女子大生殺人放火事件特別捜査本部までご連絡いただきたい。
1日でも早く事件が解決することを望む。
※画像はイメージです。


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