皆さんはアメリカ都市伝説の怪人、スレンダーマンをご存じですか?今やブラッディ・メアリーやジェフ・ザ・キラーと並ぶ知名度を獲得し、アメリカのティーンエイジャーを震え上がらせているスレンダーマンですが、その起源は匿名掲示板の怪談捏造スレッドの悪ふざけでした。
されど噂の広まりに比例し彼の脅威は上がり、遂には十代の少女二名が友人を殺傷する、衝撃的な事件を起こすに至ります。今回はスレンダーマンの発生経緯や殺傷事件の顛末を解説していきたいと思います。
きっかけはサムシング・オーフル・フォーラムの悪ノリ企画
スレンダーマンの誕生は2009年まで遡ります。6月8日、アメリカの匿名掲示板サムシング・オーフル・フォーラムに新しいスレッドが立ちました。サムシング・オーフル・フォーラムは利用者6万人を誇る電子掲示板サイトで、現在インターネットに定着している、数々のネットミームの発祥地としても知られています。
該当スレのタイトルは「Photoshopでパラノーマルな画像を創り出そうぜ (create paranormal images through Photoshop)」。その主旨は不気味な画像を捏造すること。日本でたとえると5ちゃんねるのVIP板のノリに近いでしょうか。
スレッドが立った2日後、フォーラムの常連であるビクター・サージが一枚の写真を投稿します。
それは一見何の変哲もない白黒写真。場所はどこかの公園で、滑り台の梯子を上る男の子が、にこやかなカメラ目線で写っています。ところが奥に目をやると、背中から触手を生やした、黒ずくめの影が佇んでいるではありませんか。人影の周囲には子供たちが群がり、ハーメルンの笛吹きめいた、不穏な空気を醸し出しています。
サージはこの人物が子供を誘拐する現場を目撃したと取れる文章をフォーラムに投稿し、彼をスレンダーマンと名付けました。以下、写真に添付されていた文章の和訳です。
「僕たちは行きたくなかった。あの子たちを殺させたくなかった。だけど長い沈黙の時間と彼の長い腕は、子供たちを恐怖させると同時に安心をくれたのだった」
ご丁寧にも最後には「1983年、撮影者不明。死亡したと推定される」と記されていました。手が込んでいます。
サージの書き込みを見た利用者は、スレンダーマンの話に刺激を受け、彼が主体のフィクションを次々と紡ぎ出します。様々な利用者が創作の拡散に参加する中で、スレンダーマンには新たな設定が追加され、キャラクターの軸が定まっていきました。
しばらくのち、スターリング市立図書館の焼け跡から回収した(と偽った)写真が流出します。これは14人の子どもがスレンダーマンと呼ばれる怪人と共に姿を消した、有名な事件の証拠品と言われていました。
気付けば僅か五か月足らずでスレンダーマンは有名になり、超常現象や陰謀論がテーマのラジオトーク番組『Coast to Coast AM』に、スレンダーマン関連の質問が殺到するように。サージが作り上げた子どもをさらって殺す怪異の影響は、公共の電波やインターネットを通じ、アメリカ全土の人々に及んだのです。
スレンダーマンが都市伝説化するまで
スレンダーマン最大の特徴はその異様な風体に尽きます。外見は黒い背広に身を包む長身痩躯の男性で、顔には一切パーツが存在しません。完全なるのっぺらぼうです。口がないので発声もできず、会話を介した意思疎通は不可能。胴体に比してアンバランスに長い手足を持ち、場合によっては触手も付加されました。この触手は犠牲者を威嚇し、捕らえる時に活躍します。特に好む獲物は成人前の若者や幼い子供で、気に入った相手をどこまでも追いかけてきます。正式名称は「The Slender Man」。
スレンダーマンは子供をストーキングする異形の怪人であり、ひとたび狙われたら逃げられません。運悪くスレンダーマンと遭遇してしまった人は、記憶障害や幻覚幻聴を含む精神異常の他、血咳や鼻血が止まらなくなるスレンダー症を患います。至近距離で目撃してしまった場合は発狂を避けられず、最悪即死もあり得るのが恐ろしい所。推定身長は180センチから3メートルとされ、任意の場所に瞬時に移動する、テレポート能力も持ち合わせているそうです。
サムシング・オーフル・フォーラムの利用者「ce gars」が投稿した動画も、スレンダーマンの猟奇性を高めるのに貢献しました。
この作品の主人公アレックス・クレイリーは映画学校の学生。ところが初監督映画『Marble Hornets』制作中にトラブルが起き、未編集のテープを友人に託したのち、周囲と連絡を絶って転校してしまったのです。『Marble Hornets』はファウンド・フッテージの触れ込みでYouTubeにアップされ、「クレイリーはスレンダーマンと遭遇した」「転校というのは嘘で、本当はスレンダーマンに連れ去られた」と視聴者の多くが信じ込みました。拡散過程は『The Backrooms』と似ていますね。
12歳の少女2人が起こしたスレンダーマン刺傷事件
2014年5月31日、アメリカ合衆国ウィスコンシン州ウォキショーで恐るべき事件が発生しました。12歳の少女2人がスレンダーマンの都市伝説を真に受け、友人の少女をナイフで滅多刺しにしたのです。
もともと三人は仲の良い友人同士でした。ところが事件の主犯となった少女2人がネットでスレンダーマンの存在を知ったことがきっかけで、歯車が狂い出します。
事件前の2人に取り立てて異常は見当たらず、平穏な日常生活を送っていました。被害者の少女とも良好な関係を築いており、親や教師は「何も問題はなかった」と困惑気味に証言しています。
2人は「スレンダーマンの従者になりたい」と熱望し、スレンダーマンの存在証明の為、生贄を捧げる儀式を思い付きます。そこで選ばれたのがクラスメイトの少女。スレンダーマンに気に入られ、森の奥の屋敷に招かれることが彼女たちの目標でした。「スレンダーマンが家族に手を出すのを防ぐ為身代わりを用意した」とも言っています。
斯くしてスレンダーマンの代理人を自称する少女たちは、儀式前夜にクラスメイトとお泊まり会を決行します。
殺す場所は地元の公園のトイレ。ここなら排水溝を備えているので血液の処理に手間取りません。当初は被害者の口をテープで塞ぎ、ナイフで首を刺したのち逃走する予定でした。
が、計画にトラブルは付き物。実際の犯行現場には別の場所、人けのない近所の森が選ばれました。2人は隙を突いて友人を押さえ付けるや、刃渡り13センチに及ぶナイフで全身を切り付け、「助けを呼んでくる」と騙して立ち去ったのです。
被害者は瀕死の状態で道路まで這って行き、たまたま通りがかった自転車に助けを求め、辛うじて生還を果たしました。主犯の少女たちは第2級殺人を企てた罪で逮捕されたものの、陪審員に精神異常が認められ無罪となります。その代わり精神病院に隔離され、長期治療を受ける決定が下されました。片や25年、片や40年間病院の監視下に置かれるので、出てきた時には無職の中年になっています。
ネットの憶測を取り込んで成長し続けるスレンダーマン
スレンダーマン刺傷事件の全容は世間を震撼させ、面白半分にネットの祭りに便乗する、現代社会の風潮に警鐘を鳴らしました。
洒落怖まとめサイトの内容を鵜呑みにした小学生が、くねくねに生贄を捧げる動機で殺人未遂を起こしたと想像すれば、事件の異常性が伝わるのではないでしょうか。
スレンダーマンに関してもっと知りたい方には、NetflixやAmazonプライムなどで視聴できる映画『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』をおすすめします。ジェームズ・モラン監督の『スレンダー 長身の怪人/都市伝説:長身の怪人』と見比べても面白いかもしれません。
※画像はイメージです。
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