私が住んでいるのは、長野県西部の町。
でも都会の人たちがイメージするような、田んぼと畑しかないような田舎ではありません。
大きなショッピングモールこそないものの駅も繁華街もあり、住宅地には昔から多くの人が暮らしています。
その一方、例に漏れず、高齢化が進み、居住者が亡くなって廃墟と化している家も少なくはありません。
夏の日の出来事
今ほど暑さが厳しくなかった、小学5年の夏の日のことです。
私は仲のいい友達たちと、いつものように寄り道をしながら帰っていました。
真っ直ぐ家に帰ることの方が珍しく、通学路ではない道を歩き回って遊ぶのが日課になっていました。
その日も、気づけば辺りは少し薄暗くなって、そろそろ帰ろうかという空気になった時。
一人が突然、
「変なソバ屋!あるの知ってる?」
と言い出したのです。
私は家に帰へ途中にある、営業をやめたまま放置されている古いソバ屋を思い出しました。
「ああ、あの坂の途中にある店?」
そう答えると、友達は嬉しそうに、
「そこそこ!」
と言って、その店にまつわる話を始めました。
夜になると人影が見えるとか、閉まっているはずなのに店の奥に明かりがついていたとか、中には少し怖い話もあり、
子供らしい噂話ばかりでしたが、その場にいた全員の興味を引くには十分だったのです。
結局、私たちはその蕎麦屋へ向かうことになりました。
ソバ屋に入ってみた
蕎麦屋は、緩いカーブになった下り坂の途中にあります。
私たちはこっそり敷地へ入り、窓から店の中を覗き込みました。
店内は椅子やテーブルがきちんと並び、本棚には古い日付の少年ジャンプや雑誌がそのまま残されていました。かなり前に閉店したはずなのに、荒らされた形跡はほとんどありません。
誰かが「入れるんじゃないか?」と言い出し、試しに表の扉を引いてみると鍵はかかっていませんでした。
そこで私たちは、店の中へ入ることにしたのです。
店内は、長い間使われていなかったとは思えないほど綺麗で、埃っぽさもあまり感じません。
むしろ妙に居心地がよく、誰かが普通に生活している家へ勝手に入り込んでしまったような感覚がありました。
建物は2階建てで、1階にはカウンター席とテーブル席が並び、厨房の奥には2階へ続く階段があります。
私たちは店内を見て回ったあと、その階段を上がりました。
2階は住居になっていました。
一つの部屋には布団が、ついさっきまで誰かが寝ていたように敷かれたまま、居間のテーブルにはお菓子やお茶が置かれ、まるで、住んでいた人が突然いなくなっただけのような光景に驚かされます。
しばらくして1階へ戻り、みんなで置かれていた漫画を読んでいると、突然、2階から誰かが駆け下りてくるような足音が聞こえました。
私は反射的に店の外へ飛び出したのですが、逃げ出していたのは私だけ。
少し遅れて友達が出てきて、
「どうしたんだよ」
と不思議そうに聞いてきます。
私は、「今、2階から足音したでしょ?」と聞き返しましたが、誰もそんな音は聞いていないと言うのです。
気のせいだったのかと思いながら、もう一度店の中へ戻った時、私たちは妙な事に気づきました。
店内は相変わらず綺麗なのに、階段だけが酷く傷んでいたのです。
途中の段が抜け落ち、木も腐っていて、とても人が上がれる状態ではありません。
私たちは顔を見合わせました。
さっき、自分たちは確かにこの階段を上がったはず。
日も暮れ始めていたこともあり、その日は帰ることになりました。
ですが、帰り道の間も、誰一人としてあの階段の話をしようとはしませんでした。
ソバ屋の事
帰宅後、祖父にあのソバ屋の話をすると、少し嫌そうな顔をして、
「あそこは昔、事件があった店だ」
と言いました。
詳しく聞くと私が生まれる前、店主が何者かに殺害され、その後、店は閉じたままになったそうです。
残った家族も町を離れ、それ以来、誰も住んでいないと聞かされました。
ですが、私は祖父の話を聞きながら、どうしても気になる事がありました。
あの2階です。
布団も、お菓子も、お茶も、まるで誰かが今まで生活していたように残されていました。
なのに、あの階段は、とても人が上がれる状態ではなかったのです。
あの日、私たちは、いったい何を見ていたのでしょうか?
それに私の聞いた足音は、本当に気のせいだったのでしょうか?
高校生になる頃には、あのソバ屋は地元でも有名な心霊スポットになっていました。
色々な噂も聞きましたが、私はそれ以来、一度も近づいていません。
建物は、今でもひっそりと残っています。
※画像はイメージです。


思った事を何でも!ネガティブOK!