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ツーリングで体験した不思議な話

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私は去年の秋、東北へソロツーリングしに行きました。
紅葉が美しい季節で、真っ赤に染まった山々を遠くに見ながら、ワインディングロードを心地よく走り抜けます。
その日は、ある山の奥にある秘湯に立ち寄り、その後、町まで降りて予約していた宿に泊まる予定でした。
しかし、その途中でバイクが突然止まってしまったのです。

原因はガス欠、私は走るのに夢中で給油するのを忘れてしまう事がときどきあります。
そんな事から慣れているので焦ることなく、燃料タンクのコックを「リザーブ」位置に切り替えました。
ちなみにですが、バイクには燃料メーターがない事が多く、リザーブ機能を使えば少しは走れるのです。

ところが、以前、同じようにガス欠になったとき、リザーブのままコックを戻すのを忘れていました。そのため、バイクには全くガソリンが無くなってしまい、うんとも動きません。
当時は携帯よりもPHSが復旧していたので、山の中は電波が入らないので助けを呼ぶことはできません。しかたなく真っ暗な山道をバイクを押して、町の方へと向かいます。

東北の山の中は街灯なんかひとつもなく真っ暗、バイクはおろか車も走ってこない、ときどき不気味な動物の鳴き声が響き渡る。自分の愚かさを悔やみ、泣きそうになってバイクを押すこと1時間、ようやく、遠くに集落の明かりが見えてきました。

心のなかで大喜びしながら向うと、小さなガソリンスタンドを発見。むろん田舎のガソリンスタンドなので夜は営業していませんが、翌朝には給油ができるので安心です。
バイクが迷惑にならないようにスタンドの脇に停めて、野宿できそうな公園を探していると、一件の雑貨屋がまだ開いていました。
空腹だった私は、店に入って売れ残っていたアンパンと飲み物を購入。店の前で食べ始めたとき、遅い時間だった事もあったのでしょう、店のオバサンが不審に思ったのか、「どうしたの?」と声をかけてきました。

私は事情を話すと、おばさんは「それなら泊まっていかないかい?」と申し出てくれました。
あまりに申し訳なく、最初は遠慮しましたが、「東京に行った息子の部屋が空いているから」「夫も亡くなってしまい、私ひとりだから」などと勧められ、ついに断りきれず、お世話になることにしたのです。

店の奥にある自宅へ通されると、どこか懐かしさを感じました。まるで幼い頃に住んでいた家のような・・・ほっとする雰囲気です。
「余り物だけどね」と言いながら出してくれた夕食は、とても豪華で、とても“余り物”とは思えないほど。温かいお風呂までいただき、すっかりくつろいだ私は、息子さんの部屋へ案内されました。
部屋には見覚えのあるアイドルのポスターや懐かしい漫画が置かれており、どうやら息子さんは同年代のようです。知らない部屋のはずなのに、不思議と安心感がありました。

温かい布団にくるまりながら、「もしやオバサンは山姥で、夜中に食べられてしまうのでは?」なんて、妄想をしつつ、気づけば深い眠りについていました。

翌朝、おいしそうな味噌汁に匂いで目を覚ますと、すでに朝食が用意されていました。
驚いたのは、私が着ていた服まで洗濯されていたこと。畳んで手渡してくれたオバサンの手は冷たく、朝早くから洗ってくれていたのだとわかります。
見ず知らずの私に、ここまで尽くしてくれる優しさに思わず涙がこぼれました。
別れ際、オバサンは「よかったらまた来てね」と声をかけてくれました。その言葉が、今でも心に残っています。

その後、私はガソリンスタンドで無事に給油を終え、旅を続けました。

あれから一年、お礼を伝えたくて、私は再びオバサンの元へ向かうことにしました。
今度は迷惑をかけないよう、燃料の管理は万全です。

山間を縫うように走り、あの集落へと向かいました。ほんの一晩過ごしただけなのに、なぜか懐かしさが込み上げてきます。しかし到着して愕然、オバサンの店があったはずの場所には、ただ瓦礫の山が広がっているだけだったのです。

困惑しながら辺りを見回していると、ちょうど通りかかったおばあさんに声をかけました。
「あの、ここにあった雑貨屋のことを知りませんか?」すると、おばあさんは首をかしげ、不思議そうに言いました。

「ああ、あの店なら、もう何年も前からこんな状態だよ」
「そんなはずはないです。私は去年の秋にここで世話になったんです」

どうしても納得がいかず、さらに詳しく話を聞かせてほしいと頼むと、おばあさんは少し考え込んだ後、ぽつりぽつりと語り始めました。

「たしかに、ここには雑貨屋があったよ。早くに旦那さんを亡くした奥さんが一人で切り盛りしてけど、その奥さんも病気で亡くなったんだよ・・・もう10年以上も前の話」

思わず息を呑みました。

「息子さんがいたはずですが?」
「いたよ。でも、まだ小さい頃に事故で亡くなったって聞いてるよ」

去年、私が泊めてもらったあの家は?オバサンは? あの温かい夕食も、お風呂も、優しい言葉も。
呆然と立ち尽くしていると、瓦礫の隙間に何かが挟まっているのが目に入りました。
手を伸ばして拾い上げると、それは無くしたと思っていたライディンググローブ。

確かに、私はここにいた。確かに、あの夜を過ごした。
でも、だとすると?

冷たい風が吹き抜け、秋の夕陽が瓦礫の影を長く伸ばしていき、私はその場に佇むしかできませんでした。

匿名希望のバイク好き

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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※画像はイメージです。

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