これは、以前に掲載した「現在に息づくルーマニアの吸血鬼「ストリゴイ」」で取り扱った、2003年にルーマニアのマロティヌ・デ・ススで起こった事件を元に脚色し創作した物語である。
吸血鬼になった親戚
2003年、ルーマニア南西部にある村マロティヌ・デ・ススで起きた出来事だった。
12月某日、先日、親戚のぺトレが亡くなった直後、義妹が原因不明の病に倒れ、いまでも体調は思わしくない。
その事をひとり思い悩んでいたの男が、家族に打ち明けた。
「俺の義妹が病気にかかったのは、親戚のぺトレがストリゴイになって義妹を苦しめているからだ。」
「ストリゴイは親類縁者を狙う。ぺトレは毎晩、義妹のもとを訪れては生き血を吸いとって墓に戻ることをくりかえしている。」
「義妹は日に日に衰えていき、このままでは彼女は死んでしまう。手を打たねばならない。」
彼の発言を家族、そして村人たち全員は真剣に受け止めた。
「やっぱりそうだったかい」
村人たちにとって、ストリゴイとなった人を対処することは避けられず、遥か昔から伝えられてきた方法で、ストリゴイを退治するしかない。
ストリゴイ退治
ストリゴイを退治する役を、6人が買って出た。
夜、男たちはペトレの遺体が埋葬されている、村の墓地へと赴いた。ストリゴイが動き出すのは午前3時、それよりも前に全てを終わらせてしまわねばならない。
男たちは墓の前に立つと、シャベルを使って棺桶を掘り起こして、棺桶を開けた。すると、葬儀のときには確かに仰向けに寝かせて埋葬したぺトレの遺体が、腹ばいになっている。
死んでから時間が経っているのに肌は生者のようで、遺体の口のまわりは真新しい血がこびりついていた。
儀式に参加した一人は言った。
「これ、義妹さんの血を吸った跡だよぁ」
腕時計に目をやると、もうすぐストリゴイが動き出す時刻にさしかかる。
不快な作業だが、躊躇している暇はない。
男たちは棺桶からぺトレの遺体を引きずり出し、草刈り鎌をふりおろして心臓をえぐり取り、動き出さないように木の杭を遺体に打ち込んだ。
心臓にもを打ち込んで鉄板に縛りつけ、燃えかる炎に放り込む。
東の空が明るくなるころ、焼き尽くされた心臓の灰をかき集めてボトルにいれる。
儀式はまだ終わっていない。
灰をつめたボトルを水で一杯にして、親戚の女性に飲ませる。
病に伏している女性は、身体を起こして「これでもう大丈夫ね」といった。
水を飲む義妹の姿を眺めていた義兄はホッとし、村人みんなが同じ気持ちだ。
その後、彼女は回復していった。
警察の介入
年があけて、ぺトレの遺体を掘り起こして心臓を焼き、灰になった心臓を飲み干したことが明らかになり、ルーマニア警察は死体損壊やその他の容疑により、マロティヌ・デ・スス村へと捜査に入った。
吸血鬼=ストリゴイを倒したとはいえ、現在の法律では犯罪である。関与した6人の男たちは逮捕、起訴されて法廷に立ち、裁判結果は6カ月の執行猶予。
マロティヌ・デ・スス村周辺の住民たちは、口をそろえて言う。
「ストリゴイを退治するのは、昔からずっと続いてきたんだ。」
「気持ちのいいもんじゃないが、ストリゴイに苦しめられちゃ堪らない」
ルーマニア南西部では代々、吸血鬼の脅威に対処する方法が伝えられ、実行されてきた。
伝統と現在
このエピソードを知ったとき、私は完全な作り話だと考えた。
だが各国のデータを調べてみると、そうではないらしい。
ルーマニアの地方ではストリゴイを葬る風習が現在もなお続いており、その度に警察が捜査に乗り出しすそうだ。
ストリゴイは実在しないのだから、ルーマニアの警察は参加した人物や関係者たちを逮捕する。それでもなお、ルーマニアの山村ではストリゴイは「生き続けて」いるのだろう。
たしかに他者の価値観に鑑みると猟奇的な行いには違いないが、ルーマニアの民俗文化であるとすれば、その地で生まれ育ち死んでいく住人たちに向かって「野蛮な習俗は今すぐ止めろ」と強いる権利はない。
長々と書いてきたが、先のエピソードとあわせてストリゴイを信じるルーマニアの住人たちや儀式が果たして実在するのか、現時点では完全に調べ切れていない。
したがって今ひとつ内容に自信がない。
ここにきて無責任だが、これは事実なのか、誇張された噂なのか?
※画像はイメージです。
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