日本に古くから伝わる呪術や陰陽道。現代では私たちの生活にあまり関わってこない存在だが、エンタメ世界ではその限りではない。
『呪術廻戦』を例に挙げるまでもなく、「呪術」や「陰陽道」は漫画やアニメの世界では長きにわたって愛されてきたモチーフだ。
今回取り上げる『天傍台閣』(著 弓庭史路)もまた日本風の「呪術」をモチーフに、ポリティカルスリラーやSF要素を加えた、ジャンプ+で連載中の漫画作品だ。伝統呪術と科学が同居した「もう一つの日本」で繰り広げられるバトルと陰謀。今回はその奥深い世界を深堀りしてみよう。
オカルト!科学!ミリタリー!三つが同居する世界
「秘術」ーー。
このワードに皆さんはどんなイメージを抱くだろうか?何はともあれ日常生活とは直接関係ない、神秘的でオカルトめいた何かを思い浮かべるのではないだろうか。
だが、今回ご紹介する漫画『天傍台閣』の世界では事情が異なる。
本作の舞台となるのは日本によく似た極東の島国「八洲国」。
ここでは「秘術」と呼ばれる呪法が社会に完全に溶け込んでおり、また心霊や怪異などオカルティックな厄災も日常的に発生する。いわばオカルトが当たり前の世界だ。そんな八洲国で「秘術」を使いこなし、オカルト案件に対処する人々が本作の主人公となる「術師」たちだ。
「術師」たちの統治機構「天傍台閣」の統治のもと、秘術都市「東仙郷」で暮らす彼らは「秘術」のエキスパートであり、特に祓部省清祓寮のメンバーはオカルト災害の一つ「禍獣」に対応する任務を負っている。主人公、龍守藤哉も祓部省清祓寮所属する術師のひとり。日々頻発するオカルト災害に対処している。
まあ、かなりややこしい話をしたが、主人公たちは対禍獣の特殊チームに所属していると思ってもらって構わない。『呪術廻戦』では高専が、『チェンソーマン』では公安が呪霊や悪魔に対応する組織だったが、本作では清祓寮……さらに術師全体を統治する天傍台閣がこれにあたるというわけ。
程遠い近未来的なスタイル
さて、そんな清祓寮の術師たちだが、まず目を奪われるのが「秘術」から連想される古めかしいイメージからは程遠い近未来的なスタイルだろう。
制服はそこはかとなく和を感じさせるが、シンプルかつ機能的。
テックファッションに近いビジュアルだ。また先ほど彼らを特殊部隊に例えたが、編成や装備も呪術師というより軍隊や警察に近く、対禍獣との戦闘も特殊部隊のオペレーションを見ているよう。
漫画内にはサブマシンガンを装備している隊員の姿も確認でき、「オカルトアクションもの」として見るとちょっと不思議な気分になる。また主人公たちもどこか「組織」に所属している感覚が他の作品より強く、組織に属する「公僕」としてのしがらみや葛藤も描かれる。
このあたりは『機動警察パトレイバー』に近いかもしれない。実はこの作品全体に漂う「組織感」は本作最大の特徴。後でも詳しく取り上げるが、本作で主人公たちの前に立ちはだかるのはおそらく「天傍台閣」そのもの。確かに禍獣の駆除や呪術バトルも本作の重要なファクターなのだが、この作品一番の見どころは組織内での駆け引き。
「天傍台閣」内部の暗闘に、術師同士の戦いや、友情、ライバル関係などが絡んでくる仕掛けになっている。オカルト、サイバーパンクミリタリー、そして巨大組織内の謀略……本作『天傍台閣』は、今のところどう転ぶかはわからないが、うまく行けばマニアックで大人向けの和風ファンタジー漫画になる可能性を秘めている作品と言えるだろう。
巨大秘術組織「天傍台閣」に潜む陰謀とは
伝統和風ファンタジーとミリタリーやサイバーパンクの融合……そんな古くて新しい味付けの漫画『天傍台閣』。
美麗な作画、スタイリッシュな登場人物の衣装。特殊部隊を模したプロフェッショナルなバトルなど、豊富な見どころを持つ本作だか、先にも紹介したように本当の面白さは本作の根底に流れるポリティカルサスペンスの側面にある。
物語の序盤から本作は他の類似作品より「組織感」が強めだと先にも書いたが、どうやら肝心のこの組織「天傍台閣」自体が本作最大のくせもの。こうした作品で主人公たちが所属する組織の腐敗が描かれるのは、まああるあるだ。しかし、本作に登場する天傍台閣は少し事情が異なる。天傍台閣は、秘術を管轄する国の組織……ではあるのだが、その実態は省庁というより術師たちの自治政府に近い。
様々な歴史上の経緯によって国から秘術に関する多くの権限と自治権を与えられた「秘術の国」龍下まれびと特別行政区、天傍台閣とはその統治機構なのだ。これだけでも天傍台閣がいかにややこしい組織なのかわかっていただけたのではないだろうか。そんな天傍台閣だが、清く正しく運営されているわけではもちろんない。序盤から組織の硬直化や腐敗が度々示唆されており、内部にも人間的な意味での魑魅魍魎が蠢いている。
主人公、龍守藤哉は例年にない禍獣の大量発生について調べるうち、この天傍台閣そのものが抱える闇と対峙することになっていく……のだが、まだ本作は一巻が発売されたばかり。物語がどんな展開を迎えるかはまだわからない。
主人公たちは「砂状の楼閣」と化した巨大組織の闇を祓えるのか、それとも闇に呑まれるのか。そして術師としては優秀だが堅物で青臭い主人公がどう成長していくのか。また組織モノとあって、キャラクターの広がりもこれからどんどん面白くなっていくはず。ストーリーの展開含め、今後の盛り上がりに期待したい。
天傍台閣
以上のように。今回ご紹介した『天傍台閣』は、オカルトアクションファンタジーでありつつ、主人公たちが所属している組織そのものに闇がある、そんなポリティカルサスペンス要素が強い作品。まだ序盤ではあるものの、印象としては警察や軍隊内部のゴタゴタを描いた映画や小説に近い。
漫画的な花のある要素を多く含みつつ、美麗な作画とは裏腹にかなり骨太で大人向けの作品だ。本作は原作ジャンプ+などで読むことができるが、今から追えばエキサイティングな漫画体験が約束された一本として楽しめるはず。気になった方はこの機会に一度読んでみてはいかがだろうか。
(C) 弓庭史路 集英社
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