あの頃

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私がまだ高校生の頃、兄の友人だった年上の大学生と付き合っていました。
付き合い始めたばかりの頃ですから、ただ二人で一緒にいるだけで楽しかった時期でした。

まだスマートフォンもカーナビもない時代です。
デートのたびに車を走らせては、その場の気分で適当に道を選んでいました。

ところが、何度か同じようなドライブを繰り返すうちに妙なことに気付きます。
なぜか毎回のように、最後は墓地や火葬場にたどり着くのです。
最初は偶然だと思っていましたが、一度や二度ではありません。
行き先を決めずに走っていると、気が付けばまた墓地、また火葬場ということが何度も続いたのです。

当時の私たちは若く、何でも面白がる年頃でした。

「あ、またこんなところだよ」
「変だよね。呼ばれてるんじゃないの?」

そんなことを言って笑い合っていました。

目次

ブロック塀の前

墓地や火葬場にたどり着くことが半ばお決まりになっていたある日のことです。

私たちは夜道を走っていました。
しばらくすると、正面にブロック塀があるT字路に差しかかります。

私はいつものように言いました。

「右」

ところが、彼は右へ曲がろうとしません。
そのまま真っすぐ交差点へ向かっていったのです。

不思議に思った次の瞬間、

「あれ、ブレーキが利かない!」

彼が焦った声を上げました。

ガスガスと空しくブレーキを踏む音が聞こえます。
ハンドルも思うように動かず、車はまるで意思を持ったかのように真っすぐ進み続けました。
正面のブロック塀がどんどん近付いてきます。
不思議なことに、こういう時は時間がゆっくり流れるように感じるものです。

もう駄目だ。

そう覚悟を決めた瞬間でした。
突然、車はぴたりと停止したのです。
ブロック塀まであと数センチだったと思います。

私も彼も声が出ませんでした。
しばらく固まったまま動けず、やがて大きく息を吐きました。
彼はゆっくりとバックし、改めて交差点を曲がりました。
その後どうやって帰宅したのかは、ほとんど覚えていません。

何年も後に聞いた話

それから何年もの月日が流れました。
私は就職して上京し、彼とも自然に疎遠になっていました。

そんなある日、久しぶりに兄と電話で話していた時のことです。

兄が何気なく彼の話をしました。
そして、彼が亡くなったことを知ったのです。

私は驚いて理由を尋ねました。

すると兄は、

「それがよく分からないんだ。自殺なのか事故なのかもな。結婚したばかりだったし、多分事故だとは思うけど……」

と言います。

詳しい事情は分かりません。
ですが、その話を聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのはあの夜の出来事でした。
なぜか墓地や火葬場ばかりにたどり着いたこと。
そして、ブロック塀に激突する寸前で止まったあの車のこと。

兄の仕業

今になって思うと、当時の私たちはかなり浮かれていました。
周囲の目など気にもせず、人前でも家でもベタベタしていました。
今なら恥ずかしくて思い出したくもありませんが、そこでもキスすることもありました。
当時はそれが幸せの証拠のように思えていたのです。

ですが、周囲から見ればどうだったのでしょう。
私たちの交際を快く思わない誰かがいても不思議ではありません。
少なくとも高校生の妹と自分の友人がそんな調子だったのですから、兄が面白く思わなかったとしても無理はありません。

もちろん、聞いたわけでもないので本気でそう思っているかは解りません。
ですが、墓地や火葬場ばかりに導かれたことや、あの夜の出来事を思い返すたび、ふと考えてしまうのです。
もしかしたら、あれは兄の思念が生んだ生霊みたいな存在の仕業だったのではないかと。

兄は今も元気ですが、昔の彼氏の話になると決まって機嫌が悪くなります。
自分の友人で、結婚したばかりで亡くなってしまった可哀想なひとなのに。
だから私は兄の前では、この話だけはしないことにしています。

※画像はイメージです。

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