引越しという生活の節目に、一度だけ金縛りを経験したことがある。
ありふれた現象ではあるが、その時に感じた異質さどうにも引っかかっている。
一度だけの金縛り
引っ越し前の部屋で過ごす最後の夜、後は新居に向かうだけ。
特に感慨深い思いもなく、いつの間にか寝落ちしていた。
時間は解りませんが、ふと目が覚めると体が動かない。
指1本すら動かせない状態、状況としては典型的な金縛り。
意識がはっきりしていて、「明日の早朝に出発しないとならないのに、このまま動けないは困る」と冷静に判断できるので、夢ではない事が解る。
その直後だった。頭のすぐ横に、何かがいる気配を感じた。
こちらの様子をじっと観察しているような、明確な存在感があった。
人なのか、それ以外なのか、その判断すらできないまま、時間だけが止まったように過ぎていった。
やがて気配は消え、直後に体が動いた。
安心はしたが何かがまだ残っている感覚があって、そのまま眠る事なく朝を迎えた。
この部屋で最初で最後の異変が、最後の夜に起きたという点だけは、どうにも引っかかる。
この部屋では、過去に一度だけ奇妙なものを目撃している。室内に全裸の男が立っていた。
見間違いとするのが妥当ではあるが、ひょっとしたら、その男が最後に挨拶に現れたのかもしれないと思うと笑えてしまう。
体験と睡眠の関係
過去に火葬場で勤務していた。
いないはずの人影を見たり、誰も触っていないのに物が動いたり等の怪奇現象は何度も体験している。
葬儀の都合で宿直を含め、火葬場で50泊以上はしているが、その間に金縛りは一度もなかった。
遺体の安置や夜間滞在、怪奇現象が起きるといった環境を考えれば、心理的負荷は高い。
しかし金縛りは発生していない。
この点から気がついたのは、「霊的な要因が強い環境ほど金縛りが起きる」という仮説は成立しないのではないかという事。
むしろ影響が大きいのは睡眠状態の質だと考えられる。
勤務中の宿直は緊張状態のため入眠は浅くなりやすいが、短時間で回復する必要があるため、結果として深い睡眠に移行しやすい。一方、引越し前夜は疲労と環境変化による不安定な覚醒が続き、浅い睡眠のまま推移しやすい。
条件としては後者の方が、金縛りを引き起こしやすい状態だと考える方が合理的だ。
金縛りはありえない
金縛りは、レム睡眠中に起きる身体の麻痺と意識の覚醒がずれることで発生する生理現象であり、医学的に説明が可能である。
火葬場での宿泊時に金縛りが一度も発生していない事実からも、特定の場所や霊的要因によって引き起こされる現象とは考えにくい。
この部屋で目撃された「全裸の男」については、知覚の異常として扱うのが妥当。
金縛りとの直接的な関連性を示す根拠は存在しない。
結果、金縛りは一貫して生理的な要因によって発生する現象であり、心霊的な現象ではない。
しかし、科学的に説明できる金縛りと、霊的な金縛りという2種類があるかもしれない。
※画像はイメージです。


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