異世界転生・・・今やエンタメ系のド定番となったこの設定。
「あれ?また俺なんかやっちゃいました?」からイメージされるように、自分の持っている知識や能力に無自覚な主人公が、無自覚なまま転生先で大活躍。
ヒーローとなるのが王道パターン、少し捻ったものだと転生時にチート能力を与えられたりするタイプも人気だ。
今回ご紹介する『TS衛生兵さんの戦場日記』(原作: まさきたま/漫画: 耳式/キャラクター原案: クレタ)も、そんな異世界転生ものに連なる作品なのだが、今までの異世界転生ヒット作とはかなりカラーが違う。なんと、本作の主人公は「チート」が全く使えない。
描かれるのはひたすら泥臭い戦いと、過酷な戦場という硬派すぎる作りになっている。いわば異世界転生ヒット作の対極に位置するこちらの作品、今回はその魅力に迫ってみよう。
史上最も過酷な異世界転生?無双できない主人公が戦場で見つけるもの
さて今回ご紹介する漫画『TS衛生兵さんの戦場日記』、もとは多くのヒット作同様にラノベが原作。こちらはコミカライズ版になる。
大まかなあらすじは、異世界に転生したSPFゲーマーの主人公トウリが、治癒魔法の適正を見出され、少女の身でありながら衛生兵として激戦区に送り込まれるというもの。主人公の転生先は剣と魔法の世界でありながら、文明は第一次世界大戦時レベルまで発展しており、RPGの世界というより、ハードな戦記ものの要素が強いのも特徴だ。
ラノベ原作のメディア展開作品、異世界転生かつミリタリーといえば、『幼女戦記』を思い浮かべる人も多いだろうが、本作の中身は完全に真逆。異世界ミリタリー世界で、チート美少女が無双する展開を予想していると完全に裏切られる。まず、主人公は適性はあるものの、作品開始時魔法はまったく使えない。
異世界転生ものといえば、チートレベルの特殊能力や現世で培った知識が役に立つのがお約束だが、主人公にはそういったものはゼロ。かろうじてFPSゲーマーだったという設定はあるものの、現実の戦場でゲームの知識が役立つわけもなく、あまり活かされない。
美少女に転生したからといって特にちやほやされたり、劇的な変化が訪れるわけでもなく、一兵卒として普通に扱われる・・・じゃあなんで美少女になっているんだ!と思ったりもするが、これはお約束の範囲内だろう。
では性格はというと、『幼女戦記』のように転生先の人々がドン引きするほど、冷徹で合理的か?というとそうではない。ごくごく普通の気弱な好青年といったふうで、戦場で恐れられるような要素は全くない。
そう、本作はごく普通のゲームオタクがチートや知識を持たないまま、過酷なミリタリー異世界に転生したらをやっているのだ。
無力なまま、異世界で過酷な運命に弄ばれる主人公の苦難は名作『十二国記』にも通じるものはあるが、最近の異世界転生ものではここまで主人公にマイナス要素が振られているのはなかったのではないだろうか?
なんというか、ある意味異世界転生の禁じ手を使いまくっているとも言うべき本作。だが、異世界転生ものが飽和状態の今だからこそ出来てきたものでもあるだろう。まさに「今」だからこそ読める作品というべき本作。
読んで損はない作品と言えそうだ。
過酷!異世界転生!主人公を取り巻くのはイカれたメンバー?
チートもハーレムも無し!異世界転生した一般人が過酷な戦域に投入され、必死に生き延びる様を描いた本作『TS衛生兵さんの戦場日記』。そんな主人公の周りを彩るメインキャラクターもくせもの揃いだ。
結論から言うと、過酷な戦場にみんな慣れすぎてキマってしまっているだけなのだが、そんなキマりすぎキャラの中で群を抜いてヤバいのが、主人公が所属する隊の部隊長ガーバックだ。
このガーバック、主人公が投入された西部戦線でエースと呼ばれる兵士で、近代戦にあって中世の豪傑かのような勇猛な戦いを繰り広げる男。「頼りになるじゃないか!」と思った人も多いだろうが、それは大きな間違い。ガーバックは勇猛果敢な兵士であると同時に、仲間を平気で盾にする、不要と判断すれば味方を見捨てるなど、指揮官として最低な面を持つ男だったのだ。
治癒魔法の適性を見出された主人公は、よりによってこのガーバック専属の衛生兵にされてしまう。任務はエースであるガーバックを「死なせない」こと。勇猛果敢であると同時に冷酷無比でもあるガーバックに付き従うことは容易ではなく、時には味方を見捨てながら主人公は泥沼の戦場を突き進む。
当然ながらガーバックは俺様かつ非常に厳しい上官で、教育の名目で容赦ないシゴキも主人公を襲う。わずかな人間性を保っている戦友たちのフォローも、鬼のガーバックの前では無力。そんなこんなで、主人公は敵からも味方からも追い詰められてしまう。
まさに八方塞がりと言った具合の主人公だが、次第にただ戦場で右往左往するだけの存在ではなくなっていくのもポイント。適性が認められた治癒魔法を学んだことをスタートに、兵士として成長していく。
またそんな中で、主人公とガーバックとの関係にも変化が。最初は鬼上官とひ弱な部下と言った関係だった二人だった二人の間に、友情……とまでは言えないが奇妙な師弟関係のようなものが育まれていく。
「鬼上官」ガーバック。彼が、この先も主人公に影響を与え続けることは確実だろう。「鬼」が主人公と関わる中で、その秘められた内面を見せる日はくるのか。二人の関係にも注目だ。
主人公の戦いに未来はあるか
ここまで見てきたように、今回紹介した『TS衛生兵さんの戦場日記』は、過酷な環境、リアルな戦場、バフもチートもない主人公、好感度ゼロから始まる味方キャラなど、ある意味異世界転生ものでありながら異世界転生もののお約束を破っていく作品だ。
主人公に感情移入していると辛い展開が続くが、お約束にちょっと胸焼けしている読者にはぴったりの作品となっている。また、今回取り上げたコミック版は、ポップな絵柄でサクサク進むので、小説版より(凄惨なシーンはちゃんと凄惨だが)読みやすくもある。気になった方はぜひ、チャレンジしてみてほしい。
(C) まさきたま・クレタ KADOKAWA
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