ある都市伝説的俗説に関してその真偽を知人と論じ合った。人から人へ伝播する情報には、常に「正しい内容への更新」が求められるが。広域で同じ「情報」という括りにできる都市伝説という存在ではどうだろうか。
『情報』に求められるもの
「情報とは生モノだ」そんな文言がある。情報とは根拠、信ぴょう性、鮮度などを考慮し時に精査と更新を重ねていくものであり、その性質ゆえに常に真偽を問われる存在である。情報の根幹には知識があり、知識を元にした情報を知る者の母数に比例して万人の共通認識すなわち常識が構築されていく。
間違った知識に基づいた情報の拡散・浸透の怖ろしさは医学方面を見るとイメージしやすいだろう。祖父母の世代では常識だった治療法が今では無効どころか有害である、というパターンも散見する。情報とはその時その瞬間に「最新か」「信用できるか」が問われ、「正しい内容である」ことが求められている。
情報の持つ性質を踏まえて、今度は『都市伝説』を見ていく。人から人へ伝播する一種の情報と呼べる都市伝説は、同じように「正しい内容である」ことを求められているだろうか。
先に知人と論じ合った都市伝説は以前紙面にまとめたことがあったので、今回は別の有名処を例に挙げる。
伝播する情報である『都市伝説』
1980年代、世界的に話題となり物議を醸した『ミステリーサークル』。穀物の育つ広大な畑に突如円を重ねたような幾何学的模様が出現する現象で、ヨーロッパなどの外国で多く見られた。テレビ番組でも怪奇現象として特集で紹介されていたので知る人は多いはず。
緻密な計算の元に倒された稲穂や穀物と、決して小さくない規模の大地に描かれる芸術的とも呼べる幾何学模様は一体どのように生成されたのかと、世界各地の有識者や国家までもが仮説を立て真相を明かそうとした。
悪魔や妖精のイタズラか、神の啓示か、はたまた地球外生命体からのメッセージか・・・。様々な説が紹介された当時の特番で結論として示されたのは「人間の手で作成されたハンドメイド説」だった。作成者として応じていたのはイギリスのダグ・バウワーとデイブ・チョーリー。2人は当初家族の目を盗み夜に外出しては手ずからミステリーサークルを作成していた。陰謀や特別なメッセージ性などもなく、ほんのイタズラ心とスリルを求めて。
しかし当人たちの誤算は自分たちが作ったサークルを不可思議な存在のせいにする人間が多かったことと、国を巻き込んだ大騒動に発展したことだった。ダグは1991年、ミステリーサークルの制作者の一人として、実際サークルを作る際に利用した手製の穀物を倒す工具の作り方と実際に一晩で完成させたサークルの作成方法を公開した。
この一手により、「ミステリーサークル=超常現象」説は失速していく…と思われたが、一部の仮説論者からはダグたちの主張を否定する動きが見られた。
いわく「現存するミステリーサークル全てがダグたちの手製でない以上、未知の力で作られたサークルが存在する可能性を100%否定はできない」とのこと。
確かに、発見された中にはダグたちが作成を始めた時期より前に作られたと思われるサークルもあったし、作成方法を公開して以降はダグたち以外にもミステリーサークルを作る者たちが世界中に現れた。ダグたちが携わっておらずかつ作成者が不明のミステリーサークルは超常現象の可能性がある…という主張は、ダグたち以外の名乗りがなければ完全否定できない。
かくしてミステリーサークル騒動は人の手によって作られたものと超常現象の可能性があるものが混在という、まあ混沌とした形で安定した。
都市伝説を「更新する」ということ
この騒動では作成者が名乗りを挙げ証拠を提供したにも関わらず、別方向から『作成者や作成方法未解明のミステリーサークルの存在』という新たな切り口の論が追加され、超常現象により生成された可能性が情報に点在するまま流布することになった。
「信用できるか」「最新か」と、常に正しい内容であることが求められる常識の元の情報と比べ、都市伝説を形作る情報は「自身が持つ興味関心と合致するか」という多様性が重視されているように思える。「情報は生ものだ」と謳うように、そもそも都市伝説は「信じるか否かは諸君らに委ねる」というスタンス。
信ぴょう性は多少影響するが、要は「どの情報が自分にとって最もロマンを掻き立てられるか」であって、情報の更新の是非すらも興味ある者の自由。都市伝説を構築する情報には、そういった通常の情報とは少しズレたしかし興味深い性質が含まれているといえる。
完全な余談だが作者が知人と論じ合っていたのは『フィラデルフィア計画』で、これもまた内通者の告発や軍の主張、関係者の謎の死や失踪など、中々に重厚な情報が多数出回っている。
気になった読者諸君はぜひ調べ、自身のロマンが至るところまで情報を更新してみてほしい。
※画像はイメージです。
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