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「うたて沼」が表すもの~言葉から考える怪談

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言葉とは人間にとって無くてはならないものであると同時に、刻一刻と変化していくものです。瞬く間に古い言葉は使われなくなり、忘れ去られてしまいます。しかし、時には古い言葉に込められた意味を考えなくてはならない場合もあるでしょう。

怪談の中には怪異の正体が明かされず、あやふやでありながら強烈な恐怖感を残すものが少なくありません。インターネット発の怪談「うたて沼」もその1つ。
この記事では、キーワードとなる言葉に着目して、この怪談を考察していきたいと思います。

目次

「うたて沼」とは

『うたて沼』とは、2013年頃にインターネット掲示板の2chで語られた怪談です。山へドライブにいった3人組が、廃寺に現れた不気味な穴のような怪異に出会うというものです。

本作の特徴は、怪異の正体がはっきと分からないことにあります。表題の通り、不気味な穴は「うたて沼」と呼ばれるものと考えられるのですが、それがどのような性質のものであるかといった内容は語られることはありません。同じく2chで語られた『姦姦蛇螺』などとは、異なるタイプの怪談と言えるでしょう。

詳しくは後述しますが、怪異について何も分からない怪談を読むと、気味の悪さが長く続きます。「分からない」ことこそが、本作の本質なのかもしれません。

あらすじ

「俺」が学生だったときの話。

「俺」は友達A・Bと共に、山にドライブに出かけました。途中、運転手交代の場所を探していると、駐車できそうな広場が見つかりました。広場で休憩をしていると、山の中に城跡があることが分かり、見学に行くことになります。

山道を登り、看板のない分かれ道を左にいくと、廃寺がありました。相当長く放置されていたようで、かろうじて形を留めた本殿や完全に崩れてしまった鐘楼があります。
廃寺を散策していると、Bが本殿の扉を開けてしまいます。中は埃だらけで、床には、やはり埃にまみれた和紙が落ちていました。そこには「うたて沼」と書かれています。しかし、その言葉の意味は分からず、境内に沼のようなものも見つかりません。

「俺」たちは廃寺の散策を終わらせ、先に通った分かれ道を反対に進み、目的地の城跡に辿り着きました。城跡からは、先に訪れた廃寺も見えます。
高い所から境内を見まわしていると、違和感に気が付きます。庭の隅に、先ほどは絶対になかった黒い穴のようなものが見えるのです。そして、その穴は動き出したのです。

意味不明さが増幅させる不気味さ

明確な目的を持って人と関わる、アグレッシブな怪異が登場する怪談は恐ろしいものです。こうした怪談は怪異の姿が判明していることも多く、想像しやすい分恐怖を感じるかからです。古典怪談の『東海道四谷怪談』がいまだに恐ろしく、かつ、魅力的なのは、こうした部分が関係しているのかもしれません。

それと正反対に位置するのが、怪異の目的がはっきりしていない怪談です。怪異が何を求めているのか、なぜそこに存在しているのか、何よりも、怪異の正体はどんなものなのか。『うたて沼』もこれに当てはまります。
怪異の目的がはっきりしていないと、想像しやすい恐怖感はどうしても薄れてしまいます。しかし、胸の奥になにかが引っかかるような、妙な感覚が残るはずです。

その感覚は、恐怖の大切な要素である不気味さを増幅させます。

例えば、名作映画として名高い『ジョーズ』や『エイリアン』を思い出してみてください(見たことがある人は)。『ジョーズ』は最初から人食いザメが登場することは分かっているものの、その全容はなかなか描かれません。それは『エイリアン』も同じですが、正体の分からなさが続く分、不気味さも割り増しています。

『うたて沼』に登場する怪異は、それが「うたて沼」と呼ばれていることと、ざっくりした見た目しか分かりません。「穴のよう」との描写を見る限りは、一般的に想像する、水を湛えた沼だとも考えることができません。何よりも、それが動くという現象は理解不能です。

だからこそ、『うたて沼』は怖いのでしょう。明確に怖いのではなく、「なんとなく怖い」のです。

もし、うたて沼やそれに類するものが本当にあったとして、それを理解さえしてしまえば、この怪談はそれほど怖いものではなくなってしまうのかもしれません。

言葉や地名から意味を探る

普段何気なく使っている言葉。気にせずに口に出している地名。こうした中でも、古くから残る言葉や地名の中には、何らかの重要な意味を持つものが少なくありません。
例えば洪水が起きやすい地域や地盤が弱い地域など、家を買うときや建てるときには、古地図が参考になることもしばしばあります。

では、「うたて沼」という言葉には、どんな意味が隠されているのでしょうか。

「うたて」という言葉を古語辞典で調べてみると、「いとわしく」や「いやなことに」といった意味があることが分かります。さらに、形容詞としての形である「うたてし」であれば、「気に入らない」や「イヤだ」といった意味になります。また、「悪い方向に向かう」といった意味合いもあるようです。

古い言葉のニュアンスを正確に、今の言葉に直すのは容易ではありません。しかし、訳語を見る限り、「うたて」とはマイナスな意味合いを強く持つことが分かります。

本文にある「うたて沼」の記述を読み返してみましょう。先述の通り、うたて沼は水がたまった、一般的に想像されるようなものではありません。むしろ平面に近く、自ら動く黒い丸穴です。近づくものを飲み込み(吸い込み?)、出られなくしてしまうような描写があります。また、語りて手たちを追いかけてきたことから、積極的に獲物を狙う性質があるのでしょう。

物語を読むことが好きな人ならば、「底なし沼」という言葉を聞いたことがあるでしょう。足が付かない程深い、もしくは、ぬかるみに足が取られて抜け出すことができない沼のことを指します。

現実的には、底のない沼はありません。しかし、それを分かっていてもなお、少し恐怖感を感じる言葉でもあります。
現在でも、沼という言葉は、欲も悪くも「一度はまると抜け出せない」という意味合いで使われることがあります。
こう考えてみると、「よく分からない」・「不気味な」といったニュアンスと、「一度飲まれてしまうと抜け出せない恐ろしい場所」といったニュアンスの言葉が連なり、「うたて沼」という名前になったのかもしれません。

本当にあるかもしれない?好奇心と恐怖をあおる

怪物や幽霊が襲ってくるような怪談は、分かりやすく恐ろしいものです。読んでいる間、もしくは、読み終わった後も、背後を気にしてしまうかもしれません。

しかし、この『うたて沼』は、「どこかにありそう」という好奇心と「本当にあったらどうしよう」という不安感/恐怖心をあおる怪異譚となっています。山の中にある廃寺と城跡という組み合わせもまた、こうした感覚を盛り上げます。
近くの山に廃寺があったら、その奥にうたて沼が隠されているかもしれません、

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