90年代に幼少期を送った者に、拭いがたいトラウマを残したアニメ『花子さんがきた!!』。
同作には「トンカラトン」や「さっちゃん」といった恐ろしい妖怪・幽霊が登場し、世代人の間で語り草になっている。
だが、竹書房から刊行された全10巻の原作には、それらに優るとも劣らぬ戦慄のエピソードが収録されているのだ。
第1巻より、「夜中に歩く生徒」という話を紹介しよう。
無人の校舎にさまよう
S県にあるT小学校には、夜間の誰もいない校舎を徘徊する生徒がおり、出くわしてしまうと魂が入れ替わって、自分が夜中にさまよう生徒になってしまうという噂があった。T小に通うマサト少年と三人の友人たちは、一度夜中に校内を探検してみようということになり、その日の真夜中に学校へと集まった。
マサトが利き手の左手で懐中電灯を掲げ、先頭に立ち、四人は暗い校内を前進してゆく。すると、どこからか別の足音がついてくるではないか。さては夜中に歩く生徒か、とみんなは騒ぎ出したが、マサトは誰もいないはずだと辺りを照らす。壁を見ると、そこには五人分の影が映っていた。
パニックを起こして表へ逃げ出す三人。「待ってくれよー」とマサトも追いすがる。「ひどいよな、おれだけ置いていくなんて」懐中電灯を持ったマサトの姿は、逆光でよく見えなかった。なぜか右手に電灯を持ち、声色も普段と違うようだったが、みんな気にせず家へ戻っていった。
あえて説明せぬ恐怖
そう、この話はここでお終いなのだ。描写から考えるに、マサトが夜中に歩く生徒と入れ替わってしまったことは間違いない。あえてそこを言明せず、外面描写で済ませているところが巧みである。この種の人間と入れ替わる怪異を描いた作品には、水木しげるの短編「やまたのおろち」等があるが、「夜中に歩く生徒……」は読者に想像させる結末にしている点が独特だ。
夜中に歩く生徒となってしまったマサトは、家に帰りたくとも帰れず、際限なき心細さにさいなまれ続けるであろう。もし彼が解放される日が来たとしても、その時は他の誰かが身代わりにされてしまう。
一方、マサトと入れ替わった夜歩く生徒は、その後はマサトとしての生活を何食わぬ顔で送るのだろう。三人の仲間たちは、彼の様子からうすうす真相を察するだろうが、自分たちがマサトを置き去りにしてしまった負い目があるため、他の者に真相を打ち明けることは至難の業だと思われる。
じわじわと後を引く恐怖
マサトにせよ、三人の友人たちにせよ、状況打開のために取れる選択肢が無いのだ。マサトを置き去りにした三人は、罪悪感とやりきれなさに蝕まれつつ今後の生活を送ることになるだろう。
衝撃的な怖さとは違う、後を引くような恐怖を与える作品である。


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