あれは20年近く前のこと。
当時、私は東京で派遣社員をしていたんですが、昼休みから戻って来ると携帯電話に妹から着信がありました。
「チチ キトク スグカエレ」
ほんとう??
「うっそだー☆」と思いましたね、あの時は。
確かに、父はその年の春頃から入院し、癌の治療を受けていましたが、お盆に帰省した時は結構元気で、嬉し気にハムスターを撫で回しておりました。
連絡を受けたのは10月も末・・・そんな急激に悪化するものか?と疑問だったんですね。
それでなくとも浴びるように酒を飲む日々を過ごし、かなりの愛煙家であっても、わりとぴんぴんしてましたので寝耳に水の急報でした。
が、妹の話によると、医者にもう2~3日しかもたないだろうと言われ、親戚中に連絡して回っているとのことでした。
「マジか?」とちょっと動揺。仕事中なのに・・・とごねていると、派遣先の上司がすぐ帰りなさいと言ってくれましたので、早引きすることにしました。
父が亡くなってしまった
私の実家は四国で、台風が接近中とのことでしたので、飛行機を使わずに新幹線と在来線で帰省します。
午後の新幹線に飛び乗って、その日のうちに帰郷しましたが、台風のせいで在来線が遅れ、JR松山駅に到着したのは夜中の0時過ぎ。駅には妹が迎えに来てくれていました。
一路、父が入院していた病院へ直行し、そのまま病室(個室でした)に。
その病室に入った瞬間、開けたドアの向こう側に誰かが立っているような気がしたんですね。
和服を着た中年の女性でした。
本当に一瞬見えただけで、あれ? という感じだったんですが、瞬間的に判りました。
ああ、お迎えが来とんやな。
近所に住んでいる伯父や母方の祖父母たちが駆けつけて、皆が見守る中、明け方近くになって父は亡くなりました。
私が来た時には既に意識はなく、ただ寝ているだけだったようです。
お通夜で解ったこと
その後は、休む暇もなくお通夜の準備です。
父の親戚の多くは大阪や奈良などの関西方面に住んでいますので、お通夜が始まってから続々と集まって参りまして、昔話に花が咲きました。
関西の人らしく、話をしているとまるで漫才のようでやたらと賑やかなお通夜だったのを覚えています。ついでながら、その後のお葬式もそのまま笑い声の絶えない状態で、葬儀社の方がはらはらしておりましたっけ。
それはともかく、台風情報を聞きながらのお通夜は、みんなで昔のアルバムを見たり昔話をしたりしておりました。
その昔のアルバムですが、その中に、病室で見かけた女性にそっくりの古い写真が何枚かありました。側にいた伯母に「これは誰?」と聞いたところ、「あんたのおばあさん」と教えてくれました・・・要するに、父の実母。
あ、なんだ、そうなのか! と思わず納得。
ろくでもない父でしたが・・・
どうやら父の元に、祖母がお迎えとして来ていたようなんですね。父が母と結婚した時にはすでに祖母は鬼籍に入っておりましたので、当然のことながら私は会ったことがありません。あの時、写真とはいえ、やっとはっきりと顔を見ることができました。
お迎えには身近な肉親が来るのだと聞いていましたが、本当にそうだったんですね。
仕事仲間と殴り合いの喧嘩をしたり、タイルを割って五針縫ったり、酔っぱらってクルマを運転して警察に捕まったり、近所の飼い犬を怒鳴りつけたり、おやじ狩りを返討ちにしたり・・・、ろくなことをしない父でしたが、そんな奴でも母親はちゃんと迎えに来てくれるんだな、と感動した次第です。
※画像はイメージです。
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