うちが目を開けたとき、
空気がなかった。
顔がないからだろうか。
鼻も、口も、瞳も、
ぜんぶ消えてしまった。
でも、まだうちは息をしていた。
ふと、手を動かした。
でも、動かない。
指が、震えている。
震えているんじゃない。
腐っているんだ。
うちの手は、すでに肉が溶けて、
骨と筋肉が溶け合い、ぬるぬると粘っこい液体になった。
その液体が、たくさんの目を持つ小さな泡を膨らませて、
ぱちん、ぱちん、と爆ぜていた。
その音が、耳に届く前に頭が割れた。
うちの中で、何かがガリガリと、引き裂かれていた。
それは頭の中からはじまって、
首を通り、胸を突き破り、
腹の中で湧き出してきた。
皮膚は、ただただ腐り落ちる。
でも、それでも、うちは生きていた。
それが、確かだった。
目が、なくても、耳が、なくても、
うちはまだこの身体にしがみついていた。
それが、生きるってことなんだろうか。
よくわからないけど、
ただ、この腐った身体から逃げられなかった。
顔の穴から、血があふれる。
血なんかじゃない。
黒く、ぬるぬるしたものが、
目から、耳から、口から、
どろどろと、うちの身体を抜け出していく。
すべてがうちから逃げていく。
それは、きっと逃げるべきものだろう。
でも、逃げた先に何が待っているのか、
それは誰にもわからない。
あたりが真っ暗になった。
何も見えない。
何も聞こえない。
でも、うちの中で何かが動いている。
うちの中で、無数のものたちが
ぬるぬると這い回っている。
何かが笑っていた。
だれの声かもわからない。
ただ、うちの中のどこからともなく、
“笑った、笑った、笑った、笑った。”
その声が、何度も、何度も響く。
その声がうちの中で、広がっていった。
そのうち、うちの中で全部が笑い出した。
笑って、笑って、笑って、笑って、
それがうちの頭の中に入って、
うちを消していった。
顔が消え、指が消え、身体が消えて、
その音だけが、耳に鳴り響いた。
うちの皮膚は腐って、あふれ、
うちの骨は崩れて、こぼれ、
うちの内臓はとろけて、溶けた。
それでも、うちは生きている。
それでも、うちは、
身体の中で何かが動いていることを感じる。
けれど、その何かは、
うちを笑いながら消していく。
笑った、笑った、笑った、笑った。
それは、もはやうちの声ではない。
その声がうちを覆い尽くし、
うちを消し去った。
でも、消えないものが残った。
うちが消えた後も、残ったものが、
どこかで笑い続けている。
うちは永遠に笑い続ける。
※画像はイメージです。
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