あの未曾有の大災害から11年。
東北の被災地は未だ復興の最中だが、着実にその歩みを進めている。巨大津波が襲来したかつての住宅地は災害危険区域となって住むことはできなくなり、その跡地にできた新たな商業施設などが賑わいをもたらし始めた。現在の復興の姿を誰もが思い描けなかった、発災から間もない頃、被災地では、霊体験が囁かれた。
とりわけ、よく伝え聞いたのが「タクシーに乗車する幽霊」の話だ。

それは、じっとりと暑い夏の夜のこと。タクシーが海沿いの道を走らせていると、前方に手をあげる人影があった。

「あれ?お客さんかな」

止まってドアを開けると、中年の女性が乗り込んできた。座席に身を委ね、行き先を告げる女性。ふと、運転手は不可解な思いに捉われる。告げられたのは津波で壊滅状態となり、瓦礫しか残されていないような場所だからだ。

それでもお客さんの指示である以上断ることもできず「誰かと待ち合わせでもしているのだろう」と思い直し、目的地へと向かう。ゆっくりと走り出しながらルームミラーで女性の姿を確認するや運転手はギョッとする。

この蒸し暑い季節に、その女性は厚手の冬コートを着ていたからだ。

「服装なんて人によりけりだし、やませ(北東から吹く海風)が吹いて肌寒い日もあるからな」と、とっさに疑念への言い訳を探しつつ目的地に近づいた頃、ミラー越しに後ろを見ると、なんと、いるはずの女性は跡形もなく消えていたという。

このようにタクシーの中で乗客が忽然と消える話は、被災地に限らず全国各地でもよく語り継がれている霊体験の一つだ。ただ、ここで考察すべきは、乗客の季節外れの装いという点だ。春の陽気と冬の寒気を繰り返す3月。あの日も時折雪が舞う寒い日だった。

激しい揺れに見舞われ気が動転する最中、沿岸部では、津波警報に追い立てられるように慌てて避難した人が多かった。その途中で津波にのまれ敢なく命を落とした人は数えきれない。消えた冬コートの女性も、そんな悲しい最期を遂げた一人だったのかもしれない。

自身の死を受け止められずに彷徨っているのか・・・。
それとも、最愛の家族に会いに住み慣れた我が家へと訪ね来るのか・・・。
真夏に限らず、お彼岸やお盆の時期でも同様の体験談が散見される。

ペンネーム:かげぼっくり
怖い話公募コンペ参加作品です。もしよければ、評価や感想をお願いします。

※画像はイメージです。

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