2足歩行…それは我々人類にとってあまりにも身近である一方「どうやってそれを自然に行っているのか?」と問われればたちまち思索の迷路へ迷い込んでしまう謎と魅力に満ち溢れる不思議な領域です。
それ故にか、大地を「2本の足で」踏み締め歩くという姿に人は人間の似姿を思い描いてしまうものなのか、エンターテインメントの世界では古くから「2足で歩く」機械の姿が幾つも描かれています。
しかし「人間の完全な模倣」には21世紀現在でも未だ至らず、増して人よりも大きい、或いは小さい姿での実現は遠い道程と言えるものです。
それでも人の飽くなき探究心はそれを「不可能」と断じる事も無く「18m」のガンダムが歩行する姿を作り上げるという事を実現させたりもしています。
今回はこの「2足で歩き回る」という事について「機動戦士ガンダム」の世界を通じて見てみたいと思います。
ガンダムよ取り敢えずは大地に立て?!
「18mの巨体」は地面に「立つ」だけでも大変だった!必要なのは「神経」と「筋肉」!
「機動戦士ガンダム」の世界では、モビルスーツと呼ばれる巨大…「ガンダム」が全高18m前後な人型兵器。
宇宙空間は元より地球やコロニー内部などの重力圏において、時に熟練した兵士のような運動性を見せ付け、迫力のある戦闘シーンが幾つも展開されます。
しかし、ガンプラ「ガンダムのプラモデル」を作った事がある人ならば、そのかっこいいフォルムを自立させるのに苦労した記憶があるのではないでしょうか。
数十分の一、或いは百数十分の一というサイズの軽量なプラモデルですら、自立を前提とした形状で形作られていない限り、自立させる事は中々に難しい問題であると言えます。
これが18mの構造物・・・マンションであれば6階建て相当、有名なものであれば「奈良の大仏」が同等となる建物が「ただ地面に乗せただけ」で自立している状態を作り出すという事になります。
マンションのような構造物、即ち「動かないもの」であれば、安定した形状で安定した地盤の上に据え付け、自重を重くする事で安定させたり、地面に杭を打ち込んで土台に固定してしまう等の方策で安定させる事が出来ます。
しかいモビルスーツは「動き回る兵器」である事から当然そのような方法も取る事が出来ず、機体そのものの能力で安定させなければならないという事になります。
この際「2足の足裏で自重を支えなくてはならない」というような、物質的強度の問題については「ルナチタニウム」や「ガンダリウム合金」。砲撃はおろかモビルスーツ同士の肉弾戦であったり、吹き飛ばされ倒れ込んだりしても原型を留める程の強度を誇る未知の金属へ委ねるとして、残る問題となる「人型が2足で自立をするには微細な全身運動が必要」という難問をクリアする必要があります。
これは日常的に2足で歩き回っていると見落としがちな問題と言えるものです。
もし人間の「骨格」が物理的に自立可能であるなら、何かに身体を預けたりせずに「直立したまま寝る」事が出来るはずといった問題から、実際は「立つには意識的な支持が絶えず必要」であるというものです。
この「意識的な支持」は、人間の場合無数の神経系統に接続された全身の筋繊維が、重力に引かれて倒れよう崩れようとする骨格を複雑で絶え間ない伸縮調整によって「立たせて」いるという、ある種の「力技」と言える現象に支えられているものとされます。
モビルスーツは?
ところがモビルスーツは人間を模した骨格や関節を有するとは言え、基本的な構造としては「鎧のような骨格」か「骨格が鎧を纏った」ような形態であり、この「意識的な支持」を実現するには更なるブレイクスルーが必要となります。
人体における「神経系」と「全身の筋繊維」に相当するこの答えとして、まず前者に与えられたのが「モーションパターン」と呼ばれる機体にプリセットされた多数の挙動プログラム。
それを実行する為に開発された幾つかの超高性能コンピュータ及びオペレーティングシステムでした。
劇中、モビルスーツのコックピット内部が描かれる中で、レバーとペダルしか存在しないのに自然な動作を見せる姿の答えがこれらの技術であるとされます。
一方後者「全身の筋繊維」については、公式に明確な回答と言えるものが見当たらない部分ではあります。モビルスーツの正確な駆動系が詳細に作り上げられている訳では無い(出来ていれば技術的にモビルスーツが完成間近かもしれません?!)為に致し方ない所だと言わなければならない所でしょう。
ただ、一点この回答となり得るかもしれない技術が「AMBAC」の記述内にある「四肢を稼働させる流体内パルスシステム」というものです。
モビルスーツの四肢を稼働させているアクチュエーターは、少なくとも現行のロボットに搭載されているようなモーター型のアクチュエーターとは一線を画す「流体内パルスシステム」。ジェネレーターからパルス圧力を抽出し、その力によって全体を駆動させる、言うなれば「血液」のように駆動部を流れる流体が原動力となっているシステムが採用されています。
これを応用し、流体に機体駆動とは別の挙動を与えて姿勢制御用のモーメント…極小規模の「AMBAC」を担わせる事で機体の制御をするという方法が可能、かもしれないという所ではあるというものです。
仮説に想像を重ねるようなものではありますが、ひとまずこれで「モビルスーツが立つ」までの問題への回答が出来る段階にはなったと言いたい所です。
なお余談として、これらの「技術」…特に操縦と直結するインターフェースの「問題」は、究極的には「思うように動かせる」事が最適解であるとして、時に「非人道的」な回答を出すという「ドラマ」が展開される事もあります。
こうした「兵器の描き方」もまた、シリーズの魅力と言える所かもしれません。
歩く、走る、跳ぶ、骨と筋肉が織り為す脅威の技
前項において「立つ」事から難題が立ち塞がる大型機械であるモビルスーツの問題に触れましたが、それでも随所に盛り込まれたアイデアが解決の糸口、未知の技術が山ほど必要であるとしても…を垣間見せてくれました。
しかし、モビルスーツの「兵器」としての宿命は、ただ立つだけやゆっくり歩くだけで許される筈も無く、時に人間の思惑や身体能力すら超える動作を可能としなくてはなりません。
ところが人体の動作というものは、言うなれば「バランスをわざと不安定にさせて推進力を得る」ような動きが幾つも存在します。
一般的な歩行、ただ単に「歩く」という動作ですら「足を前に出す」という行為によって「バランスを崩す」事で進行方向へ向かって自重を移動させる事で「効率の良い推進力」としているのが、今日ロボットを研究する上で判明した事として知られています。
つまり「人間の動作を真似る」或いは「それ以上の動作をする」という事になると、安定した姿勢を取るだけでは到底「動作と言えない」という宿命を十数メートルの巨躯に背負ってしまったのがモビルスーツという存在だったと言えます。
そこで構築されたのが「複雑な動作パターンを大量のデータとして機体へプリセットさせておく」事、そして「適時に機体が状況を推測し、推奨される動作として出力する」という「モーションパターン」の概念でした。
この方法論であれば、最低限知らなければならない動作等は「機体が知っている」状態を作り出す事が出来る。パイロットの誰もが「立ち上がる訓練」や「歩行訓練」から入らなければならないという手間暇を大幅にカットし、極論をすれば「機体任せである程度鍛えた兵員の動きを新兵にさせる」というような効果も期待出来るものとなりました。
「機動戦士ガンダム」の劇中においては、明言こそされなかったものの「アムロ・レイ」による多彩な挙動を「モーションパターン」として抽出、量産機である「ジム」へ援用する事で、急遽投入された機体でありながら地球連邦の勝利へ大きく貢献したともされます。
まだまだ越えなければならない要素
一方で、新型機やワンオフの高性能機などの場合、既存データが当てはまらない等の理由から機体を実動させる事でデータを調整する必要などに迫られるといったケースも存在する事になりました。
こうした場合、最低限搭乗者が実戦で不具合を起こすような状況を防ぐ目的で「クセ付け」を行っておくテストパイロットである「シューフィッター」と呼ばれる存在が起用されるケースがあったとされます。
言うなれば生まれたての機体へ「練習」と「勉強」をさせる教育係のような存在は、モビルスーツが戦車や戦闘機のような兵器でありながら「成長する」要素を持ち合わせた有機的な「キャラクター」としての性質も持ってしまう側面を作り上げたと言えるのかもしれません。
ともあれ、このように「練習」と「勉強」によって「成長する」という要素を持ち込む事で「鍛えられた人間」やそれ以上の動きを可能に出来ないか、というのがモビルスーツという兵器に加えられたアプローチであったと言えます。
この辺りは現行技術においてまだまだ越えなければならない要素、量子コンピュータを越える処理速度や記憶容量、遅滞無く出力を行う強靱で微調整が可能な出力機関や駆動系等々が幾つも必要な「難題」だと言わなければならないものではあります。
しかし「無理」と断じてしまうにはあまりにも魅力的なアプローチである事もまた事実であり、AI等がようやく現れてきた状況にあって、期待の高まりを覚えてしまうのもまた事実ではないでしょうか。
余談として「モーションパターン」を実行するシステム系統…ハードウェアであるコンピュータと多数のプログラムパターンを適切に実行出来る組み合わせの精度を高めていく事によって「性能を引き出す」描写というものが「機動戦士ガンダム」シリーズの魅力の一つと言えるかもしれません。
コイツ歩くぞ?!
第一作においては主人公「アムロ・レイ」が「ガンダム」と驚く程の適応性を見せた結果「連邦の白い悪魔」と名指される程の戦果を挙げた事はあまりにも有名です。
他に個人的な好みとして「機動戦士ガンダムF91」における「バイオコンピュータ」の特殊な配線を完成させる事で「F91」が「連邦の白い悪魔」を彷彿とさせる性能を「取り戻す」描き方などは、兵器に対するロマンチシズムをこれでもかと刺激してくれるものと言えます。
今回の話題とは少しずれてしまう話ではありますが、こうした技術的な話題を各作品において散りばめて行くのが「機動戦士ガンダム」シリーズの魅力であると共に現実との橋渡しになる「SF的面白さ」を支えている部分であると信じている身として、本稿を通じて興味を感じて頂ければ幸いです。
※画像はイメージです。
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