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僕の弟

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僕が、小学六年生の時の話しである。
僕には三歳はなれた、小学三年生の弟、正雄がいた。
夏の遊びといえば、プールである。しかし、学校にはプールはあったが、授業だけに限られていた。そこで、放課後になれば、川遊びに出かける。家の近くの川には、多くの子どもらが集まった。日が沈むまで、遊んだものだ。まだ遊泳禁止がされてなかったときである。

ある夏の日、僕は学校が終わり、急いで家に帰った。蒸し暑くて、川に行きたいと思った。先に帰っていた弟を誘い、海パンに履き替え、ランニングシャツ姿、サンダルで、その川に出かけた。歩いて、五分ぐらいで着く。時間が早いのか、まだ誰も来ていなかった。僕ら兄弟しかいなかった。上流では、魚釣りをしている一人のおじさんが見えた。

僕と弟は、土手からおりて、川に入った。その川は、川幅が五メートルほどで、川の流れはゆっくりであった。透きとおってきれいな川である。魚が泳ぐ姿も見えた。岸の方では、小学生でも水面が、膝ぐらいであり、真ん中になると、水面が胸ぐらいの深さになる。いつもは岸辺で遊ぶ。泳ぐわけでもなく、浸かっていた。そのうちに友だちも集まってくるだろうと思って待っていた。いつものことである。
そして、僕は真ん中の方に行こうと思った。小学六年生になり、背も高くなったので真ん中に、ゆっくりと進んでいった。だんだん深くなったが流れがゆるいので流されることはない。

ちょうど真ん中に立った時である。誰かが、ぼくの右足首をぐっと引っぱったのである。手である。

「うわあ」

僕は、声を出して、右足をバタつかせ、つかんでいる手をふりほどいた。そして、水中を見つめた。すると、白い小さな手首が見えた。子どもの手のようであった。怖くなって、川の中に潜む手から目を離さず、後ずさりしながら、岸から上がった。すると、手はすぐに消えた。見間違いかなと思ったが、どう見ても、魚には見えなかった。

僕は、川から上がった。蒸し暑いにもかかわらず、体は震えていた。
「おい、おい、正雄、上がれ!」
僕は、川の中にいる弟を見て、叫んだ。
「どうしたん?」
「手や、手!」
そう言った。しかし、今起こった出来事を説明することが、難しく、弟に対しては、恥ずかしいことだと思ったので、それ以上は呼びかけなかった。

助けを求めるわけでもないが、集まってこない友だちを不思議に思い、僕は土手を駆け上がると、釣りをしているおじさんのところに近づいた。
おじさんは、釣り道具を片づけていた。
すると、おじさんがぼくを見ると、話しかけてきた。

「おい、何しているんや。早よ、帰ったほうがええで。さっきなあ、そこの川で小さい子が、溺れ死んだんや。あれは弟か。一緒につれて帰り」

 僕は、今起こったことを言い出せず、足首をつかまれた感覚が残っている右足を見た。死んだ小さい子が、僕の足をつかんだに違いない。

そう思うとビクリとした。
「うん、そうするわ」
土手の方から、僕は、弟に帰ることを大声で告げた。
「おい、帰るし、上がれ」

「うん」

そう弟が答えたように聞こえた。弟は、ついてくるだろうと思った。

僕は、さっさと家に帰り、休んだ。そのうちに寝てしまった。
夕食時になり、母親に起こされた。

「正雄はどうしたん? 一緒やったんと違うの?」
「川に行ったけど、まだ帰ってないんか?」
「まだや。外はもう暗くなっているのに、帰ってない。こんなことはなかったのになあ。おかしいわ」

僕は、まさかと思った。

「お母ちゃん、川探しに行こか?」
「そうやなあ」

父親も加わり、三人でその川に行った。
弟は、川で静かに浮いていた。あの手に引っ張られて、殺されたのに違いない。
僕が、弟を強引に川から上がるよう言い、つれて帰っていたら、こんなことには、ならなかったはずである。
僕は、川での出来事を誰にも話していない。

哲将軍
この話は、半分事実です

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
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※画像はイメージです。

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