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元興寺(がごぜ)~日本最古の妖怪譚

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一般的に元興寺と言えば、奈良県奈良市中院町にある寺院のことで旧称を「元興寺極楽坊」と言う。
本尊は智光曼荼羅。元興寺子院極楽坊の系譜を引き、鎌倉時代に独立。本堂・禅堂・五重小塔は国宝に指定されており、境内は国の史跡「元興寺極楽坊境内」であり、世界遺産「古都奈良の文化財」を構成する資産の一つとなっている。

しかし、元興寺は明治時代以降は荒れ果て、現在では国宝に指定されている本堂も1950年ごろまでは床が落ち、屋根は破れ、「化け物が出る」とまで噂されるほど荒廃していた経緯を持つ。
そして、本稿で論じたいのは、この元興寺を舞台とした、この国最古の妖怪譚とも言うべき怪異についてである。

目次

お化けの代名詞=元興寺?

実在の寺院である元興寺に妖怪が現われた、とされるのは飛鳥時代の頃、と言われている。
この妖怪には本来、固有の名前は付けられていなかったようだ。
しかし、出現地である寺の名前をそのまま引き継いで元興寺、もしくは元興寺と呼称されることが多かったようだ。

また、同一の存在を示す名前として、がごぜ、がごじ、ぐわごぜ、がんごう、がんごとも呼ばれるが、いずれも出現地である元興寺がなまったもの、あるいは児童語化したものであると言われ、柳田國男は化け物が出現する際、「噛もうぞ」と人間を脅して来ることに起因するのではとの説を唱えている。
また、この妖怪の姿について鳥山石燕「画図百鬼夜行」や作者不詳の「化け物づくし」、現在はアメリカ、ブリガムヤング大学内にあるハロルド・B・リー図書館が所蔵する妖怪絵巻などでは、大きな白い布に全身を覆った僧姿の獣人、といった統一感のある姿で描かれている。

つまり、我が国においては古代から、これらの名前、この姿こそがいわゆる「お化け」を指し示す一般的なイメージだったと言えるだろう。

元興寺の伝承

では、ここからは平安時代の文献、日本霊異記「雷の憙を得て生ま令めし子の強き力在る縁」から元興寺の伝承について具体的な物語を紐解いていこう。
時は第30代天皇敏達天皇(538~585)の頃。
尾張国阿育知群片輪里で暮らしていた農夫がある日、落雷に遭う。

雷鳴とともに一体の雷神も落ちてきたが、地に触れると瞬くうちに人間の子どもへと姿を変えたのだった。

驚いた農夫は手にした杖を振り上げて打ち据えようとしたが、雷神は農夫に命乞いをし、もし助けてくれるのであれば強い力を持った子供を授けてやると持ちかけてきた。
農夫は雷神の約束を信じ、雷神に求められるまま、楠の木材で船を作ってやると雷神は彼が見守る中、雷神は船に乗って空中へとのぼり、雷雲とともに天へと帰って行ったのだった。

それから程なくして——農夫の妻が一人の男の子を産む。その子は頭に蛇が巻きつきかせ、蛇の頭部と尻尾を後頭部側から垂らしているという、異様な姿をしていた。
雷神の言葉通り、その子は生まれつき人並外れた怪力を持っており、10歳のころには皇族出身の有名な力自慢と相撲を取り、その勝負に勝利したとも言われている。

後にこの子どもは奈良の元興寺の下働きなどをする童子となるのだが、時を同じくして鐘楼の世話を担当する童子たちが毎晩のように変死を遂げると言う恐ろしい出来事が起きていた。
下手人は妖怪の類であるという噂が立ち、雷神の申し子たる童子は、自ら妖怪退治を買って出る。

ある夜、童子は鐘楼で待ち構え、妖怪が現れるとその前髪をひっ捕まえて引きずり回したという。
これには妖怪もたまらず慌てて逃げ出したが、童子は血の跡を辿って妖怪の後を追い、とある墓までたどり着いた。
その墓はかつて、この元興寺で下男としては垂らしていた無頼漢のものであり、その下男が死後、鬼となって現れたのだろう、と言うことになった。
童子が力任せに引きはがした鬼の頭髪は寺の宝物として祀られることとなったと言う。

以上が元興寺にまつわる雷神童子およびに寺の名を冠する鬼(妖怪)の伝承である。

日本の宗教学者山折哲夫氏はこの物語に触れ、日本古来の神の観念が本来備えている秘匿性をよく表している、と語っている。
つまり、物語前半に登場する雷神が子供の姿に変り天に帰ってしまう点。もう一つは物語後半に登場する鬼が夜のみ登場し、その正体が悪人の資料であったという点である。
ある意味、これは神と神が対決する物語であり、現在でも読まれている娯楽作品にも継承された基本フォーマットであると考えると非常に興味深い。

妖怪~元興寺が登場する作品

では、ここからは妖怪・元興寺が登場した娯楽作品を紹介していきたい。

ゲゲゲの鬼太郎(第3期)

水木しげる氏による、いわずと知れた国民的妖怪漫画のTVアニメシリーズ第3弾に「ぐわごぜ」の名前で登場する。
しかし、キャラクター設定などはほぼアニメオリジナルとなっており、先述した雷神童子の伝承などは特に触れられていない。

ぬらりひょんの孫

少年ジャンプで連載され、アニメ化もした椎橋寛氏の漫画。
ガゴゼの名で登場し、ガゴゼ会と呼ばれる派閥のリーダー。原典との共通点は少なく、一致するのは子どもを攫って喰らう死神、と言う設定ぐらいか。

来る

澤村伊智氏の小説「ぼぎわんが来る」を原作としたホラー映画。原作とは違い、正体不明、変幻自在の怪物として描かれ登場人物たちの精神的に脆い点をつくような厭らしい攻撃をしかけてくる。
劇中、人を攫うお化け全般を示す言葉として、西洋のブギーマンと比較、同一視されているのが興味深い。

妖怪としての元興寺

ということで今回は妖怪としての元興寺について解説を行ってきた。
日本における最古の妖怪譚、つまりホラー小説ということになるのだが、あらかじめ対抗する手段としての存在=雷神童子が生み出されているのが興味深い。

日本においては人々を苦しめ恐怖のどん底に落とすのも神なら、人々を救い良い方向に導こうとするのも神、という特異な世界観が存在するのである。
そして、その世界観は各種娯楽作品などで受け継がれているのだ。

参考:
元興寺 (がんこうじまたはぐわごせ)とは【ピクシブ百科事典】
元興寺 (妖怪)

featured image:scanned from ISBN 4-3360-4187-3., Public domain, via Wikimedia Commons

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