今期の夏アニメ『レッツゴー怪奇組』がなかなか面白い。
現代を舞台にしているため、都市伝説寄りの怪異がメインの印象だが、先日は伝統的な怪異である人面疽が登場していた。
人の身体に出て来る顔の怪異、人面疽は厄介なものの1つだろう。
何しろ自分と肉体が融合しているから、タイプによっては排除がそのまま自傷に繋がる事もある。
もしも人面疽が出来てしまったら、どう対処するのが正解なのだろうか。
人面疽とは
まず、人面疽について認識を統一しておこう。
人面は、人の「面」を意味する。縁日の「お面」に使われるため、仮面イメージが出るが、本来的には「顔」そのものを指し、今回の使われ方もその意味だ。
人面疽(じんめんそ)は人面瘡(じんめんそう)とも呼ばれる。
「疽」は「悪性の腫れ物」を意味し、「瘡」は「できもの、はれもの、きず」などを指す。
「疽瘡(そそう)」というと、「できもの」の意味になる。
どちらであっても、意味は極めて近く、同じ物を指していると言って良い。
人面疽は、人間の皮膚に発生し、人間の顔の形を取る。
人間、目があれば顔と認識するものだが、複数の伝説で、目だけでなく口を持ち、喋ったり物を喰ったりする。
行動は様々で、うるさく喋るものもいれば、物を喰わせないと宿主である人間に苦しみを与えるものもある。
怪異や妖怪の類は、しばしばモデルになった現象や生物があったりするものだが、人面疽には今ひとつ手応えがない。
ウィキペディアは象皮病を例に挙げているが、顔というのは無理がある。
例えばヒンドゥーや仏教の「三面六臂の神」は、シャム双生児のような身体がくっついた症状、1つ目小僧や三つ目小僧は、目の数が異なる症状が実在する。
吸血鬼や狼男といった事例も、狂犬病の症状との類似性が語られる事がある。
だが、人面疽については、詳しく検索しても、科学(医療)面に丁度良く当てはまる説明は見つけられなかった。
現実の人面疽はないのか
検索で出て来ないとして、本当に人面疽と誤認された疾病というのはなかったのだろうか。
人間は、2つ点があれば目、3つあれば目と口が付いた顔と認識する。
この錯覚は、視界の悪いジャングルなどで、素早く敵対性物を見つけ、警戒態勢を取るための、種に備わった本能と言える。目は光を歪めず網膜に採り入れるため、表面は滑らかで、しかも涙で覆われるため、僅かな凹凸もない。
この状態は、光を反射しやすく、目に光沢があるのはそのせいだ。
また、樹上の捕食者たる猫科動物のそれは、内部に反射機構があり、光が視神経を2度通る。このため、彼らはごく僅かな光でも物が視認でき、その目は特に光って見えやすい。
そして、捕食動物が自分を狙う時、目は確実にこちらを向く。
すなわち目は、被捕食者が最も見つけやすいパーツだ。故に敏感にこれを感じ取るよう脳が働く。
そんな目は、皮膚に存在するか?
皮膚はただ滑らかなばかりではない。
複数箇所に湿疹でもできていれば、目、すなわち人面疽に見える。
しかし医療の話題に上がっていない。
この理由は、湿疹が2個で治まらないから、だろう。
同じタイプの湿疹が4つ、5つと出来てしまえば、もう目とは認識できない。むしろ、本物の目が紛れていても見つからない。
木を隠すには森の中が一番だ。
いくつかの人面疽は喋る。
統合失調症やホルモンの偏りなどで「声」が聞こえる場合はあろう。そして、この時に皮膚に顔を見出す可能性は十分にあり得る。とはいえ、この場合問題なのは声の方で、医師が客観的に患者の身体に浮き出た「顔」を観察する事もできない。
これでは、人面疽は医療に引っかからない。
オカルトの人面疽

さて、オカルトの人面疽に戻ろう。
人面疽の初出は、中国唐代、西暦860年頃に成立した随筆『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』とされる。
オカルトから風俗、動植物まで様々な内容が収録されている書物である。
とある商人の左腕に人面疽ができ、酒や食い物を喰らい、食べれば膨らみ、与えないと腕が痺れたという。
医者に診せたところ、薬を色々試すよう指示され、色々のませるうち、人面疽は漢方薬の貝母(バイモ:アミガサユリの鱗茎)を嫌がったので、無理矢理口に流し込んだところ、数日でカサブタになって治ったという。
江戸時代の『伽婢子』にも描写があるが、こちらは『酉陽雑俎』と対処法が同じで、内容を日本風にアレンジしただけの可能性が高い。
これらの人面疽は原因が不明であるが、原因がハッキリしているパターンもある。
それはすなわち悪霊、怨霊の類で、殺した相手の顔が自分の身体に浮かび上がったというものである。
つまり、ヘイケガニパターンだ。
この場合、全く縁のない相手の場合もあるが、恋愛関係にあった女という類型も存在する。
原因不明パターンと悪霊パターン、2つの人面疽には共通点が乏しいように見えるが、自我を持って活動していそう、という点は共通している。
脳はあるのか?
オカルトの人面疽は自我を持っている、その前提で考えよう。
オカルトにおける自我は魂を必要とする。
魂が無から気まぐれには生じないという説に従う場合、供給源は、幽霊悪霊の類、または妖怪の類と考えられる。
魂が単体で活動する時は物理法則から切り離されるが、肉体を得たとなると話が変わる。
肉体を正しくコントロールするには、きっちり正しく肉体に入る必要があるだろう。
肉体に正しく魂を留めるのに必要な「魂の座」は脳である。
人面疽が顔の形状を取る事からも、魂は脳に宿っていると考えた方が自然だ。だが、人面疽の材料となっているのは、当然宿主の肉体であり、悪霊らは居候に過ぎない。
エピタフやヌケサクのように、人面疽が頭部に付くなら脳を共用できるだろうが、大抵の場合腕や股間など、頭以外の場所に付いてしまう。
一口に細胞と言っても、腕と頭とでは全く別物だ。
なるほど、最初は受精卵というたった1つの細胞から発したものだが、これは多能性幹細胞の時期だから出来た事で、大きくなった後は分化も完了している。ちなみに、分化後の細胞のを多能性幹細胞に作り替えたものが、かつて話題になったiPS細胞である。
そう考えると、人面疽は細胞をiPS細胞化する機能を持ち合わせている可能性がある。
一方、恨みの強さなどで、霊のパワーそのものが強大すぎ、細胞の性質を力業で無理矢理ねじ曲げ、顔を形成しているパターンもあり得る。
この場合、人面疽部分は極めて不自然な構造になっている筈なので、血流などに問題が生じ、いわゆる「ゾンビ」状態になる可能性が高い。
人面疽の対処法
そろそろ人面疽の見分けができ、対処法もはっきりしてきそうだ。
まず、喋ったりせず、単に顔に見えるだけの場合。
これは皮膚科にいけば良い。
人間は、2つの点だけで顔を見出す天才だ。
次に、活動する人面疽の場合。
においを嗅ぎ、少し洗ってみよう。
腐臭を伴い、どんなにこすっても綺麗にならないような場合、これは悪霊が入り込んだゾンビタイプの人面疽だ。
放置していれば、細胞を人面疽に費やされ続ける訳だから、早めの対処が必要だ。
このタイプの場合、強い恨みや動機が存在する事になる。
霊と対話し、願いの本当のところを見つけ出し、往生のきっかけに辿り付く事で、解消が可能だろう。
対症療法として、皮膚科に行くのも悪くはない。
洗った後に血色の良い綺麗な肌が出て、腐臭もしない場合。
これは、それはきちんと生きた細胞を持った人面疽である。このタイプは、無理矢理取り憑いている訳ではなく、細胞をiPS化してをきちんと作り替えているので、大急ぎで排除するより、対話した方が良い。
人格次第では、共存の可能性も出て来る。そして、より良い関係性が築けた暁には、iPS細胞の研究に参加して貰うべきだろう。
人面疽の協力により、再生医学は大きく発展し、肉体を丸ごと培養する事も可能になる。
人面疽にとっても悪い話ではないはずだ。
共存よりも何よりも、とにかくただ消えて欲しいという場合。
これは慎重にやる事だ。
友好的だった人が、こちらの出方で敵対するというのは、何も怪異に限った話ではないのだから。
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