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清姫~元祖ヤンデレ?巨大蛇と化した美少女~

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「ヤンデレ」と言う言葉が知られるようになって久しい。
サブカル界隈発祥の形容語で、「病んでいる」と「デレ」の合成語であり、広義には他のキャラクター(主に主人公)思いを寄せるあまり、正気を失い、時として自傷、ストーカーなどの反社会的な行動を取ってしまう状況、もしくはそう言った精神状態にあるキャラクターを指し示すことが多い。

また、キャラクターの人格を示す割合が多いことから「属性」と呼ばれることも多々あるようだ。

「萌え」と同じく、この「ヤンデレ」という「属性」に分類されるキャラクターは、実に多岐に渡っている。
幼い頃に将来を誓い合った幼馴染や一見人当たりのいい同級生、唯一の肉親である実の妹、両親を事故で亡くした主人公にとって母親代わりの姉、小学生の頃憧れの人だった女性教師……。
いわゆる「ヤンデレ属性」が付与できそうなキャラクターのパターンは、パッと思い浮かんだ者を書き連ねただけでもこれだけ出てくる。そして、その中には人外や怪異、いわゆる妖怪と呼ばれる者たちも含まれている訳である。

ということで今回は我が国「ヤンデレ界」の巨星にして元祖、「清姫」とその伝説について解説してゆきたい。

目次

清姫の悲恋伝説

まずは現在、一般的に広く知られている「清姫伝説」について解説していく。
伝説のあらましは以下のようなものである。

奥州白河(現在の福島県白河市)より、「安珍」と言う名前の僧(あるいは山伏)が参詣のため、熊野にやって来た。この安珍はまだ若く、そして大変な美形であったと言う。

現在の和歌山県である紀伊国牟婁郡は熊野街道沿に真砂と言う名の村があった。
安珍がその真砂にて一晩の宿を求めた際のこと、悲劇の幕が上がる。
庄司・清治の一人娘である清姫はまだ若く、はじけるような美貌の安珍に一目惚れをしてしまうのである。
そして、清姫はまだ十二、三歳の少女であるにも関わらず、安珍に夜這いをかけ、関係を持つよう迫るのだった。
当時の社会通念として女性から男性を求めることは珍しくはなかったにせよ、あまりにも積極的と言わざるを得ないだろう。
現代風に言えば、肉食系女子、ということになるのだろうか?

突然の求愛に困惑したのは安珍のほうだったようだ。
僧侶と言う潔癖であることが求められる身分から、恐らく、いや、間違いなく童貞であり、生真面目な巡礼者である安珍の目には突然、自らの寝所に現れ、性的な要求を口にする美しい童女は果たしてどう映ったのだろうか?
過激を通り越して不気味ですらあり、生涯仏道を歩もうとした自分を惑わすために現れた魔物のように感じていたとしてもさほど不思議ではないだろう。

結局、安珍は清姫に手を出すようなことはしなかったが、かと言ってキッパリと拒絶することもできなかった。そして、「熊野詣が終わったら、必ずその帰りにお宅に寄らせて頂きます。その時にまた……」などと言って誤魔化し、清姫を追い返してしまうのだった。
ある意味、これは安珍と言う人物の優しさを示すエピソードなのかもしれない。
しかし、こと色恋沙汰において曖昧な態度は、悪手であり、とんでもないトラブルを引き起こしかねない。
ましてや、最初から守る気のない口約束など言語道断なのだ。

最初こそ、安珍の再訪を今か今かと待ちわびていた清姫だったが、ふとしたきっかけで自分が安珍に騙され、置いてきぼりを喰らったことを悟り、激怒する。
そして、か弱い少女の身でありながら熊野の険しい山道を追跡し、なんと安珍に追いつくのだ。
この時点で既に清姫の身に何らかの、神がかり的な力が作用していたように思える。
あの夜のことは既に終わった話だと思っていた安珍だったが、目の前にその清姫が突然現れたのだからビックリ仰天、すっかり取り乱してしまったことは想像に難くない。
その証拠に安珍はとっさに神仏に祈りをささげ、いわゆる法術を駆使して清姫をノックアウトしてしまうのである。
そして、そのまま日高川を渡り逃げ伸びようとするのだが、まるでホス狂いに追い詰められ、それを殴り飛ばして逃げ惑う悪徳ホストのような醜態である。
しかし、当の安珍に悪いことをしたという意識などはまるでなく、ただひたすら恐ろしく大パニックになっていたのだろう。

程なくして意識を取り戻した清姫も安珍追跡を再開するべく、日高川の水に身を投じる。そして、見る見るうちに巨大な蛇へとその身を変えてゆくのだ。
蛇は執着心の強い生き物とされ、大蛇への変身は人間としての理性や倫理を捨ててまで愛欲を求める姿を表現しているのだろうが、ハッキリ言ってホラー映画顔負けの恐怖描写である。
いくら元は美少女とは言え、自分の思い通りにならないからと言って大蛇に化けるような女性と添い遂げたいと思う男は皆無だろう。

相手はストーカー少女だと思っていたらいつの間にか異形のバケモノに追われている、地獄のような逃走劇の末、安珍は日高郡にある寺、道成寺に助けを求め駆け込む。
道成寺の僧侶たちも変わり果てた清姫の異形に肝を潰すが、安珍の命を守るため、鐘楼を下ろし、その中に彼の身を匿う。
しかし、それがかえって運の尽きだった。
巨大蛇・清姫は鐘楼にその身を巻き付けると熱く煮えたぎった毒気を吐きつけ、鐘楼ごとなかにいた安珍を焼き殺してしまうのだった。
因果応報とは言え、あまりにも凄惨な結末と言えるだろう。

この惨劇の後、清姫は道成寺と八幡山の間にある入り江で入水自殺を遂げたと言われているが、それでもまだ物語は終わらない。
後日談として、以下のような伝説が残っているのだ。

一つは非業の最期を遂げた安珍と清姫は、ともに地獄の一つ、畜生道に堕ちて蛇へと転生し、道成寺の住持に法華経で供養され、無事成仏したというもの。

二つ目は、安珍が鐘楼とともに焼かれて四百年後。
翔平十四年(西暦1359年頃)の春、地元の有力者からの寄進などもあり、鐘楼が再建されることとなったのだが、その鐘供養の儀式の際、一人の見知らぬ白拍子が現われる。
白拍子は一瞬にして巨大な蛇へと変身、鐘を引きずり下ろし、その中に飛び込み、そのまま消えてしまったという。
白拍子が清姫の化身だと悟った僧侶たちの祈念によって、ようやく鐘は鐘楼に設置できたが、この新造された鐘は音が良くなく、付近で災害や疫病が続いたため、この鐘は山中に捨てられてしまった。
さらにそれから二百年ほど後の天正年間、豊臣秀吉の家臣仙谷秀久がこの鐘を発見。
秀久は清姫の怨念を鎮めるため、顕本法華宗総本山である妙満寺にうち捨てられた鐘を納めたという。

道成寺や総本山の法華宗にとってはとんだとばっちりで迷惑この上ない話だが、本来物語の主人公格である安珍を直接、舞台に出すこともなく、その世界観が見事に表現されたエピソードではないだろうか?
清姫の怨念はすさまじいがゆえに盲目的で、もはや執着の対象が安珍ではなく、自分の怨念を叩きつけた鐘に移行している点が興味深い。
執着心をどこかで捨てるタイミングを得なければ、人間は永遠に地獄にいなければならないということなのかもしれない。

道成寺の絵解き

以上、清姫伝説は、大筋においては室町時代に著された「道成寺縁起」の内容と一致している。
こちらの「縁起」では妄執に駆られ、共に破滅する男女が主人公ではるものの、安珍・清姫の名は未登場であるらしい。
しかし、現在も道成寺の僧侶によって行われている絵解きでは江戸時代未明に著された「道成寺縁起絵解き手文」では、男女は安珍・清姫に置き換えられている。

ここで絵解きについても解説しておきたい。
我が国において宗教的背景を持った物語性のある絵画を「説話画」という。
その内容や思想を即興で説き語る活動、およびそれを行う芸能を絵解きと言う。
元々は寺院や神社の教化、宣伝目的のために行われて来たが、鎌倉時代以降は娯楽が少なかったこともあって急速に大衆化していったというわけである。
絵解きは絵画と語りが一体化した、いわばアナログなアニメーションでもあり、識字率が低い時代には人々が情報を得るための重要な手段であった。
言ってしまえば紙芝居や漫画、「ゆっくり動画」の元祖であり、日本が誇る文化の一つだろう。

道成寺に話を戻すと、ビジュアルツールとしては「道成寺縁起」のレプリカと安珍・清姫を主人公とした台本が使用されており、語り部である僧侶がわかりやすく現代語に直すスタイルである。
現在も参拝者に対して、この絵解きは行われているため、関心のある人は是非、問い合わせてみることをお勧めする。

現代の創作世界の清姫

道成寺の清姫伝説は、知る人ぞ知る、マニアックな昔話であったが、現在においては遥か大昔から伝わるヤンデレキャラとして人気があることは前述した通りである。
昨今の萌えビジネスでもキャラクターとして起用されることが多く、ここではその有名な例をいくつか紹介したい。

Fate/Grand Order

バーサーカーのサーヴァントとして登場。
安珍に裏切られたトラウマからありとあらゆるタイプの「嘘」を嫌悪しており、たとえそれが自分を気遣うための嘘や優しさからの方便であっても許さない苛烈な女性、として設定されている。
生前はお姫様のような身分であったせいか、穏やかで気品があるが同時に非常に嫉妬深い一面が原典の伝説を彷彿とさせる。

妖怪百姫たん

伝説に登場する清姫が妖怪化したもの。
ストーリーでは主人公の優しさに恋心を抱くがテンション高め、ヤンデレ、ストーカー気質とある意味、清姫キャラの鉄板を守っている設定である。

陰陽師

中国製ソーシャルゲーム。主人公が使役する「式神」の一体として登場する。
かつては普通の少女だったが裏切られた哀しみと憎しみにより、妖怪化したらしい。
原典の清姫が完全な大蛇に変身したのに対して、こちらの清姫は上半身が女性、下半身が蛇と言う異形の女神である。

どの作品でも原典にあった清姫の性格は継承しているようだ。ヤンデレと言う本来ならマニアックな一属性がもはや一大ジャンルとなっている証拠だろう。

結局

と言うことで今回は「清姫~元祖ヤンデレ?巨大蛇と化した美少女」と題して、道成寺の清姫伝説について解説してきた。
清姫はこれまで解説してきた妖怪のキャラクター達とは違い、一人の人間・女性としての生き様で何百年もの間、人気を獲得し続けているのだ。
恐ろしくも苛烈で真っ直ぐな生き様を見せた清姫はこれからも伝説の世界と創作の世界、二つの世界を行き来しながら愛され続けるに違いない。

参考
安珍・清姫伝説 – Wikipedia
絵解き – Wikipedia
清姫 (きよひめ)とは【ピクシブ百科事典】

featured image:Tsukioka Yoshitoshi (1839-1892), made in 1890., Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由

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