スウェーデン国防の要・国産戦闘機の祖、SAAB J21

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スウェーデンは西側にノルウェー、東側にフィンランド、南側にデンマークと国境線を接しているが、こうした地理的な位置から歴史的に中立的な政策を掲げ、生き残りを果たしてきた強かな国でもある。
政治的な中立政策と言えば、第二次世界大戦後の日本でもそうした立場を堅持してきたスウェーデンやフィンランドに対して、その姿勢を見習うべきとの左派を中心とする主張が根強かった感もある。
2022年2月にロシアが開始したウクライナへの軍事侵攻が引き金となり、それまで中立の立場であったフィンランドやスウェーデンもNATOの加盟国となり、長年に渡る中立政策は終焉を迎えた形だ。

そんなスウェーデンではあるが中立政策を堅持していた時期においても、自国の防衛の為には自前の兵器を備える必要があるとする武装中立を企図していた為、SAAB(サーブ)社と言う軍需企業を国内に持っている。
SAAB(サーブ)社は、今のロシア・ウクライナ戦争においてもマルチ・ロール型戦闘機であるJAS 39 グリペンの供与の姿勢を見せた事でも記憶に新しいだろう。

今回はそんなスウェーデンのSAAB(サーブ)社が実用化した、形状において世界的に見ても唯一無二の航空機とも言われているJ21シリーズについて、紹介していきたいと思う。

目次

SAAB(サーブ)社がJ21シリーズの開発に至った経緯

1939年9月1日のドイツ軍によるポーランドへの軍事侵攻によって、ドイツに対しイギリスとフランスがポーランド側に立ち宣戦布告を行った事で第二次世界大戦が勃発したが、その時点でスウェーデンの航空戦力は甚だ心もとなかった。
その当時のスウェーデン空軍は、イギリスのグロスター社が開発・製造した複葉機であるグラディエーターの同国への輸出仕様であるJ8を37機、改良型のJ8あを18機保有していた程度であった。

イギリスのグロスター社のグラディエーターは、同国で1934年に初飛行し、1937年から実戦配備が始められた機体ではあったが、世界的に既に複葉機の時代は去りつつあり、配備された時点から旧式化は否めなかった。
その為、スウェーデンはアメリカからの新型機の購入を企図したが、アメリカはイギリスへの武器支援を優先した為、少数しか入手出来ず、代わりにイタリアのフィアット社の戦闘機等も購入したがやはり性能の低さは拭えなかった。
こうした経緯からスウェーデンは1941年には自国で戦闘機を開発する事を決断、アメリカのプラット&ホイットニー社製のエンジンをデッド・コピーした国産のR-1830-SGC-3エンジンを用いる事とした。

この国産のR-1830-SGC-3エンジンは最大出力は1,065馬力しかない非力なものであった為、新型戦闘機の開発を担ったSAAB(サーブ)社は、そのデメリットを打ち消しつつ、強力な兵装を備える事を迫られた。
そこでSAAB(サーブ)社が採用したのが、機体の胴体部の後方に推進用のプロペラを配し、双胴式のレイアウトとしたJ21であり、非力なエンジンでも推進力を確保し、兵装をプロペラの無い機首部に集中させるものだった。

J21はスウェーデンがその当時抱えていた非力なエンジンで重武装と言う課題を何とか解決させた機体となったが、推進用に胴体後部にプロペラがある為、緊急時に搭乗者が脱出する際、それに巻き込まれて落命する危険性があった。
そのためJ21はそうした事故の防止の為、現在のジェット戦闘機等では標準となっている射出機構を備えた座席を組み込んだ先進的な仕様となり、この先進性と胴体後部のプロペラ推進と言う機構を量産機で実現した点が大きく評価されている。

J21シリーズを手掛けたSAAB(サーブ)社とは

ではここで少し遡ってJ21シリーズを開発したスウェーデンのSAAB(サーブ)社の成り立ちについても、簡単に触れて見たいと思う。SAAB(サーブ)社は第二次世界大戦の足音が近づきつつあった1930年代半ばに国策の軍需企業として設立された。
具体的には中立政策を推進していた当時のスウェーデン政府が、軍需関連事業を手掛ける複数の同国内の企業に声をかけ、1937年にSvenska Aeroplan Aktie Bolaget(スベンスカ・アエロプラン:スウェーデン航空機株式会社)を設立させた。

このSvenska Aeroplan Aktie Bolagetの4つの単語の頭文字をとって同社はSAAB(サーブ)社と呼称され、設立当初の本拠地は南部の都市・トロールハッタンに配されたが、2024年の今は本社機能は首都のストックホルムに置かれている。

SAAB(サーブ)社は設立時にはJ21シリーズなどの軍用の航空機を製造する企業であったが、1944年以後は民生用の小型航空機の製造にも進出、同市場を巡る他国の同業他社との低価格競争に敗れ1999年には撤退している。
日本のスバル(かつての富士重工)社や、ドイツのBMW社などの航空機製造企業と同様にSAAB(サーブ)社も第二次世界大戦後には、民生用の自動車製造の分野に進出、1970年代までは小型・中型車のカテゴリーで一時代を築いた。

SAAB(サーブ)社の自動車部門は1980年代中盤にはイタリアのフィアット社と提携し、高級車路線へ舵切ったが1990年になるとアメリカのゼネラル・モーターズ社との合弁でサーブ・オートモビル社が設立され、同部門は本体から分離させられる。

そして2000年にはこのサーブ・オートモビル社は資本上で完全にゼネラル・モーターズ社の子会社に組み込まれ、SAAB(サーブ)社は航空機やミサイル・レーダー等の軍需向けを主とする企業に回帰している。
2014年には元はドイツの軍需企業の子会社であった、軍需用の造船企業であるコックムス社を買収、これにより北欧で最大規模の軍需関連企業となり、その売り上げの凡そ85パーセントを軍需が占めている。

SAAB(サーブ)社が手掛けたJ21シリーズの特徴

SAAB(サーブ)社が手掛けたJ21シリーズは、前述したように機体の胴体部の後方に推進用のプロペラを配し、双胴式のレイアウトとしており、これにより重兵装をプロペラの無い機首部に集中させ、搭乗者の安全の為、射出機構を備えた座席を組み込んでいる。
J21シリーズは1941年の開発開始当初は、国産の非力なR-1830-SGC-3エンジン(出力1,065馬力)を搭載する予定だったが、翌1942年にドイツのダイムラー・ベンツ社製のDB605B 液冷倒立V型12気筒エンジン(出力1,475馬力)のライセンス生産の許諾を得た。

これによりエンジンの高出力化に伴い設計に変更を加え、最初のモデルであるJ 21A-1は1943年に初飛行に成功、第二次世界大戦の末期に差し掛かっていた1945年4月からスウェーデン空軍に実戦配備が行われた。

第二次世界大戦中にはJ21シリーズと同様のコンセプトを持つ機体として、日本では海軍が「閃電」、陸軍が「キ98」を、アメリカ陸軍ではXP-54 スウースグースが計画されたが何れも実用化には至らずに終わっている。
その為、J21シリーズは世界で唯一、機体の胴体部の後方に推進用のプロペラを配したレイアウトの航空機として、実用化が行われたものとして、歴史にその名を残していると言って良いだろう。

因みにその仕様はJ21A-1の場合、乗員1名、全長10.45メートル、全幅11.6メートル、全高3.96メートル、翼面積22.2m2、空虚重量3,250kg、運用時重量4,150kg、最大速度640 km/h、航続距離1,190kmとなっている。
機体の胴体部の後方に推進用のプロペラを配するレイアウトの採用で目指した重兵装は、13.2 mm機銃が機首部に2丁、主翼内に2丁、20 mm機関砲が機首部に1門と言う形で実現されている。

ジェット・エンジンの搭載にも対応したJ21R

第二次世界大戦の終了後、世界の戦闘機エンジンがジェット・エンジン化されていく流れの中、J21シリーズもこれに対応する事となり、ボルボ社製のフリューグモートルRM1A ターボ・ジェット・エンジンを搭載したJ21Rが1949年8月から実戦配備された。

J21Rは開発当初はレシプロ・エンジンからジェット・エンジンへと単に換装するつもりであったようだが、開発途上で両エンジンの特性の違いに対処する為、結果として機体の半分ほどを再設計したと言われている。

J21RBの仕様は、乗員1名、全長10.55メートル、全幅11.37メートル、翼面積22.1m2、空虚重量3,090 kg、運用時重量5,615kg、最大速度800km/h、航続距離900kmとされており、ジェット・エンジンによる速度の向上は顕著である。
しかし当初よりジェット・エンジンの搭載を前提として設計された他の同時期の機体に比すれば、戦闘機としての能力が劣る事は明白となった為、SAAB(サーブ)社は29トゥンナンを並行して開発し、後継企図した。

J21シリーズの功績

現在でもSAAB(サーブ)社は、冒頭でも挙げたJAS 39 グリペンを自国スウェーデンの主力戦闘機として生産・供給しており、ここに至る同社の戦闘機開発の源流はJ21シリーズにあったのだと個人的には感じる。

このJAS 39 グリペンも自国スウェーデンの国情に合わせ、専用の滑走路が無くとも800メートル程の直線の舗装道路があれば、離陸が可能な機体として、稀有な特徴を備えた戦闘機となっている。
今後はNATOに加盟したスウェーデンが、従来通りの独自の戦闘機開発を継続していけるのかか否か、只でさえ新型戦闘機の開発コストが多くの国で問題とされている中で、非常に気になる点ではある。

featured image:Saab, Public domain, via Wikimedia Commons

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