サーフィンが趣味で、週末は友人や知人と千葉の海にいくことが多かった。
金曜の夜に現地入りして宿に泊まり、土曜の早朝から海に入るのがいつものパターンだ。
深夜の到着
いつものように仕事を終え、顔なじみの民宿へ向かった。しかし、その日は仕事が長引き、チェックインの時間に間に合いそうになかった。
事前に連絡を入れると、「遅くなっても勝手に入っていいよ」と言われた。常連だったこともあり、対応をしてもらえたのだ。
民宿に着いた頃には、すでに深夜0時を回っていた。
館内は消灯していたが、玄関は開いていた。廊下に残されたわずかな明かりを頼りに、いつもの雑魚寝部屋へ向かう。
室内には常夜灯がついていたが、ほとんど真っ暗。誰がどこで寝ているのかもよく分からない。
すでに何人かが休んでいたので、音を立てないよう気をつけながら空いている場所を探し、部屋の奥に敷かれた布団へ向かった。
横になると、隣で寝ている人の髪が濡れていることに気づいた。
暗くてはっきりとは見えないが、長い髪が湿っているのは分かる。
この人も遅い時間に到着して、シャワーを浴びたあと、そのまま寝てしまったのだろうか。
そう思ったものの、こんなに濡れていて良いのかと疑問に感じた。
もっとも、時間も遅かったので、それ以上気にすることもなく、私はそのまま眠りについたのだった。
翌朝の事
翌朝、友人たちが起きはじめる気配で目が覚め、自分も起きなければと思ったのだが、眠気が抜けず、しばらく布団の中でぼんやりしていた。
結局、一番最後に起き上がり、友人たちと挨拶を交わした。
メンバーの中には女性もいるが、自分の隣で寝ていたような髪の長い人は知らない。
「髪の長い女の人が寝てたけど誰?」
そう言うと、友人は不思議そうな顔をした。
「誰のこと?」
そこへ一人の友人が遅れてやって来て、
「なんか意味わかんない冗談はやめろよ。それより早く支度して海に行こう」
と言うので、その話はそこで終わりになった。
急いで準備をして海へ向かうと、その日は波も良く、絶好のサーフィン日和だった。
夕方になる頃には、そんな些細な出来事などすっかり忘れていた。
知人の何人かはその日のうちに帰ったが、泊まる者もいた。
自分はもう一泊する予定だったし、新しく合流した者もいる。
前日の仕事とサーフィンではしゃぎ過ぎ、少し妙なテンションだった事もあって、疲れ果ててしまった。
夕食を済ませ、すぐに眠りにつくことにした。
夜の事
何時頃だったのかは分からないが、ドタドタとやけにうるさい足音で目が覚めた。
こんな夜中に迷惑だなと思いながら寝返りを打つと、そこには昨晩とまったく同じ、濡れた長い髪の女が寝ているでははないか?!
驚いたが、偶然だろうと思ったその瞬間、女もこちらを向くように寝返りを打ってて、薄暗い中、濡れた髪の隙間から顔が見える。
異様に膨れ上がり、水を吸ったようにぶよぶよ、まるでドザエモン。
私は思わず、「うわーーーーーーっ!」と大声を上げてしまった。
何事かと、部屋にいた全員が飛び起きる。
誰かが電気をつけると、目の前にいたはずの女がいない。
一人が不機嫌そうに、
「何大声上げてんだよ。迷惑だろ」
と言う。
私は昨晩と同じ濡れた長い髪の女がいて、電気をつけたら消えたことを、少しパニックになりながら説明した。
すると部屋にいた全員が少し笑いながら、
「たぶん幽霊だよ。まあ、そんなこともあるよな」
「騒がずに寝ろ」
と、まるで当たり前のことのように言って、再び電気を消した。
しばらくすると、あちこちから寝息が聞こえ始める。
みんな、すぐに寝てしまったらしい。
だが私は、また現れるのではないかと思うと恐ろしく、とても眠ることができなかった。
結局、そのまま朝を迎えた。
意外な事
朝になっても、昨夜のことが頭から離れなかった。
あれだけのことがあったのに、みんなは何事もなかったように準備をしている。
そこへ、オーナーが半笑いでやって来たのだ。
「ほら、海岸だしさ。事故とかで人が死ぬこともあるだろ」
そう言うと、「うちの宿、出るって知らないの?」と続けた。
私は何も言えない。
「泊まった人は大体体験するよ」
そう言って、オーナーは笑った。
「幽霊処女卒業だな」
周りにいた友人たちも、親指を立てながら笑っている。
その日、私は海に入らずに、海岸でぼんやりと海を眺めて過ごした。
帰り際、一人の友人が言う。
「出たって別に何か起きるわけじゃないよ」
少し考えてから、
「まあ、びっくりはするだろうけどな」
と付け加えた。
そのとき、なんとなく分かった、そういうことなのか・・・と。
なぜだか分からないが、帰りの車の中で、私は来週もまた来ようと思っていた。
※画像はイメージです。


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