遺品整理で見つけた遺言

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祖父が一人暮らしを続けていたことを、家族はずっと気にしていました。
年齢のこともあり、何度も「一緒に住もう」と声をかけていたのです。

それでも祖父は、毎回きっぱり断りました。
怒るわけでも、理由を詳しく話すわけでもなく、「ここがいいんだ」。
それだけを繰り返していました。
私には、少し分かる気がしました。
祖父は人を嫌う人ではありませんでしたが、自分の生活の形を崩すことを、とても嫌がる人だったのです。

祖父が亡くなったのは、冬の終わり頃でした。
死因は心不全。高齢でしたし、穏やかな最期だったと聞いています。
葬儀の後、家族で祖父の住んでいたアパートの部屋を整理することになりました。
六畳ほどのワンルームで、物は多くなく、必要なものだけが揃えた清潔な部屋でした。

片付けを始めてしばらくして、おかしな事に気が付きました。
タンスの横、天井の隅、冷蔵庫の上、小さな手鏡や、金属の板が、部屋のあちこちに取り付けられていたのです。
どれも、部屋の中の一箇所に向けられています。
母が「何だろうね」と言いました。
祖父は時々変な事をする人だと、皆分かっていましたので特に気にしませんでした。

その理由は、文机の引き出しを整理しているときに分かりました。
奥から、大学ノートが数冊出てきたのです。
表紙には、日付だけが書かれていました。
中は、祖父の日記でした。

「◯月×日。今日は窓の外に三人」
「△月□日。天井の隅に二人。昨日より近い」

読み進めるうちに、鏡の意味が見えてきました。

「後ろに立たれると分からない」
「鏡があれば、分かる」
「見ていることが分かる」

祖父は、誰かに見られていることを記録していたのではなく、見逃さないための工夫を書き残していました。

日記は何年分も続き、「彼ら」の数は少しずつ増えていきました。
場所も、部屋の中へ、そして祖父のすぐ近くへと変わっていきます。

最後のノートの、最後のページ。

「もう部屋はいっぱい。どこを向いても、誰かが見ているのが分かる。これで安心だ」

少し間を置いたような文字で、こう続いていました。

「誰にも見られていない時間が、いちばんつらい」

その一文を読んだとき、祖父がなぜ一人で暮らすことにこだわったのか、ようやく分かった気がしました。
家族と暮らせば、誰かに見られていない時間は、どうしても生まれてしまう。
祖父は、それを避けたかったのかもしれません。

部屋を片付け終え、鏡をすべて外したとき、そこはただの空き部屋になりました。
祖父の日記に書かれていたものが、本当にそこにいたのか、それとも祖父の中に生まれたものなのか、私には分かりません。
ただ、祖父は最期まで、誰かに見られている部屋で暮らしていたのでした。
それがどういうことを意味するのか、祖父しか解りません。
知りたいとも思いますが、怖いから知りたくないような気もします。

みなもん
初めまして”みなもん”です。
この話は大好きな祖父が亡くなってからの話です。

「奇妙な話を聞かせ続けて・・・」の応募作品です。
評価やコメントをお願いします。

※画像はイメージです。

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