「幽霊は性的なものに弱い」という説はご存知だろうか。
何となく納得出来るようだが、腑に落ちない感じもある。
ホラー映画で最初に襲われるのは、皆から離れて性行為に興じるカップルであるし、心霊スポットに徒に出かけて呪われる系の話のいくつかは調子に乗ったカップルである。映画でも、ゴーストが自ら性行為に及んだ描写もあった。
一体これは、どう判断したら良いだろうか。
幽霊「えっちなのはいけないと思います」説の起源
幽霊について調べてみても、「性的なものに弱い・嫌い」といった記述はなかなか出て来ない。
我が身を振り返っても、学生時代にはそのような話は聞かなかった。だとすれば、その後に語られ始めた事は間違いない。
と言うと、最近のナウいひろゆキッズに「それってあなたの感想ですよね」と論破られそうだが、データはある。
私が学生の頃は、2000年かそこらだ。
Windows95フィーバーが起こりはしたが、パソコンは未だにマニアのものであり、携帯電話はガラケー全盛だ。
一般層にインターネットは普及せず、情報源と言えば新聞、書籍、テレビ、回覧板が主流の時代である。
学生時代、すなわち思春期から青年期というのは、生物としての人間にとっての繁殖期・発情期に相当し、性的な物事へのアンテナがバリ3の感度である。
そして「心霊ブーム」の空気を残す次代でもあった。
私が主流からズレていたのは確かだが、多少なりとも友人はいたし、数十名が所属する部活動にも所属していた。つまり、人との交流はあった。
そんな中で「幽霊は性的なものに弱い」という噂が持ち上がれば、耳に入らない訳がない。忘れる訳がない。
もう少し客観的なデータは、google先生に頼ろう。
検索で見つかった中で最も古い記述は、日刊SPA!の2015年7月22日記事『除霊にはエロDVDが最適!? プロの霊能者が語る「除霊飛び道具」5選』だった。
記事内の「霊能者」は電話鑑定をしている「蓮花」氏である。
※検索すると、今もヒットする人がいるが、一般名詞のため同一人物と安易に考えてはいけない
記事内容は「男性霊能者から聞いた話」として、自慰行為や「エッチなDVD」で霊がいなくなってしまうとの事である。
この2015年時点で「エロが除霊に使える」という話が一般的に知られていたとしたら、「男性霊能者から聞いた話」という枕詞は付く訳がない。
霊能者がそれなら、2015年当時は一般に広まっていなかった、と考えて良いだろう。
恐らくこの記事が発端、または2015年以降、つまり10年ほどの間に広まった説と言い切って差し支えないだろう。
エロが除霊に良い理由
「そんな訳はない」というと話が終わってしまうので、前提として「エロに除霊能力がある」ものとして考えよう。
先ほど引用した記事では、性的な行為に耽溺する人を見た幽霊が、「なんだコイツ」と「引いて」自発的に去るといった推測がされている。
確かに、性的な事を好まない、心の底から潔癖な人の幽霊なら納得出来る話だ。
しかし、幽霊も一枚岩ではない。
十人十色、幽霊も様々だ。
性的なものを見ても何も動じなかったり、かえって興味を持って近付く幽霊もいるのではなかろうか。
四谷怪談のお岩さんは、伊右衛門の婚礼の晩、すなわち初夜のタイミングを狙って登場するし、エロ漫画に登場する幽霊に至っては、何の抵抗感も持たない。
エロで追い払えるタイプの幽霊と、そうでない幽霊がある、そう解釈すべきだろう。
では、エロで追い払えるタイプの幽霊というのは何故追い払われてしまうのだろうか。

幽霊側の理由
よく知られるのは、幽霊は死の象徴であるから、生の象徴である性と相性が悪い、という説だろう。
これは比較的納得しやすい。
幽霊が、強すぎる生命力に追いやられるイメージだ。
幽霊にとって生命力は親和性の高いものではないため、弾かれてしまう。
生命力溢れる昼間に出ず、静かな夜に出る理由にもなる。
ただ、この性質は絶対的なものではなく、その反発力に抗うほどの性への興味や、相手への恨みがあれば押し切れる、と考えれば追い払われないタイプの幽霊も説明出来る。
この派生として、エロによる強い生命の奔流に触れる事で、本来の魂の循環に戻る、つまり往生してしまう、という事も考えられる。
生命の強い光によって幽霊の「影」が鮮明となり、自分の死を自覚するイメージだ。
別タイプとして「雰囲気が壊れるから」というものもあろう。
冗談を言っている訳ではない。
幽霊は恨む相手に危害を加えたい時、物理攻撃は無理なので、精神面攻撃を選択する。
恐怖心を与える為に大事なのは、初手で驚かせ、怯えさせてしまう事だ。
初手で「怖い」と感じさせてしまえば、その後は自ら恐怖を募らせ、関係ない事にすら怯えるようになる。だが、性的な事にいそしんでいる最中に出てしまうと、雰囲気は台無しである。
この場合、性的なものに限らず、クラブのような賑やかな場所や、パーティー会場、みんなでUNOをやっている最中などは、出にくいだろう。
仮に出ても細かく観察されて、
「ああ、君は昨年交通事故で轢き殺した○○さんか、悪かった! お詫びにパーティーを楽しんでくれ!」
と土下座の1つもされた日には、次に出たところで、
「ああ、また君かい?」
「君にも責任の一端はあったんですからあまり被害者面しないで下さい」
と、どんどん慣れて、怖さはなくなってしまう。
人間側の理由
人間側の理由は比較的単純である。
性的な行為中は集中しているので、幽霊が近付いても気付かない。
これである。
性的な行為に限らず、仕事中やゲームに没頭している時、スポーツや演奏の最中などに幽霊に気付く事はほとんどないだろう。
伝統的な言葉で言うと「志村後ろ」だ。
ステージ上の志村けんは、プロフェッショナルとしてコントに集中していた。だからこそ、背後の幽霊の気配が分からず、観客の指摘にも気付かない。偶然振り向いた時に鉢合わせして、ようやく驚くのだ。
逆に集中せず、注意を広範囲に薄めている時、例えば暗い部屋に入った時や、ふと夜中に目覚めた時などは、幽霊と遭いやすいタイミングと言える。
つまり、幽霊が怖いからといって、単にエロDVDを流しただけではいけない。集中して視聴出来ない心理状態であるなら、幽霊に気付いてしまう可能性が高い。
自慰行為についても、恐怖で縮こまっている時には、円滑に進める事は難しい。
そんな時は、エロにこだわらない方が良い。
自分がどんな時でも集中できる程好きな動画や何かを流したり、頭にこびり付いて離れない仕事の事を考えたり、少量夜食をとったりする事で、幽霊から意識を話す事が出来そうだ。
除霊はあくまで除霊
結論としては、
- エロで除霊ができる、というのはある程度根拠がある
- 但し、他に集中出来るものがあるなら、そっちの方が効果的
となる。
ただし、これはあくまで除霊、つまり幽霊を遠ざけているだけであり、迷う魂を往生させ本来の流れに戻す浄霊ではない。
エロを怠ると直ちに幽霊が現れるような環境にいるのであれば、浄霊を目的として対策した方がずっと建設的である。
このような時、自分がある程度納得出来ている宗教に頼る事は、とても有効である。
オカルト現象は、オカルトで解消するというのが古くからの知恵だ。
あなたが何らかの文化の中で生きる時、無意識レベルに信仰心は食い込んでいる。宗教的儀式はこれを納得させてくれる特効薬だ。
※画像はイメージです。


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