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バブル時代に建てた我が家も築三十数年も経過していた。これまで自然の脅威に長年耐えてきたが、至る所に痛みが生じてきた。
特に酷使していた台所は、無惨な状態になってきた。その内、修繕、改装しなければならないと思っていたが、リーマンショック以来からの不況続きで、先立つものが乏しくハムレット状態に陥っていた。妻には悪いが、見て見ぬ振りをするのが得策と思っていた矢先だった。

「お父さん! 家の周囲はまだ構わないけど、せめて台所だけでも治してよ。最近特に痛んできたので困っているの。判っていないようだけど、台所は私の顔なのよ。何とかして欲しいワ!」
梅のつぼみもふくらみを見せて、例年にない暖かさに清々しい新年を迎えていたが、突然、驚愕するような言葉を妻に吐かれた。

『その様な事は、お前に言われんでも判っている』
心の中で叫んでいたが、言葉に出しては言えなかった。然も、結婚して四十数年、悪魔の様に変身してしまった妻から、憎々しく言われたのが癪に障った。可愛い妻であれば、邪険には出来なかったが、今の妻からは昔の記憶は消え失せてしまった。結婚した事に、後悔していたのが本音だった。
「エッ、台所がお前の顔? どう見てもお前より台所の方が美しいぞ」
この難問から何とか回避したかった。持ち金が有れば、

『判った! 手配する』

言いたい所だったが、無い袖は振れなかった。更に、この悪いジョークが徒となった。
「判った! あなたがその気なら私にも考え有りますから。明日からご飯の用意は自分でして下さい。風呂も自分で沸かして下さい。今後の私は、一切家事は放棄します。これは冗談では無いからね。覚悟して下さい」
見た事も無い恐ろしい形相で怒った。冗談でも、この様な事は言うべきではなかったと後悔したが、既に遅かった。
「冗談だよ! 冗談だよ!」
妻の恐ろしい程の威圧に負けて、謝るしか方策は無かった。しかし、軽い冗談だと思っていた私だったが、真に受ける妻に程々疲れを感じていた。

月々の少ない売り上げは、仕事に回して手一杯の状態だった。無駄と言うか無用な自宅の改装までは、お金が欲しかった。しかし、口先では偉そうに言っていたが、情けない私は、妻の願いと言うか脅しに屈服するしか方策は無かった。
渋々、改装をする事を決断したが、近所の工務店へ見積もりを取り寄せると、私の予想を遙かに超えていた。
「オイ! メチャ高額だぞ。これでは先の見通しが付かなくなる。もう少しの間でも、台所の改装を我慢出来ないのか? 時期を見て、お前の臨み通り必ず改装するから」
提示された金額では袖は振れなかった。これでは、妻に懇願して回避するしか無かった。
だが、
「そんなにケチケチ言わないで。私の年金を少しは出しますから。それで支払いは行けるでしょう。どうかお願いします」

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