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要りませんか?

仕方なく彼女と別れたが、もう少しの時間でも会話を楽しみたかった。

『高齢者でも若い女性の方が、良いのに決まっていた』

口が裂けても妻には、この様な事は言えなかったが、これは私の本音だった。
「何しているのよ。若い女性と話をして・・・彼女は知り合いなの?」
「知り合いではないが、メチャ可愛い子だろう。本当は、最近出来た素晴らしい恋人だよ!」
「嘘ッ! その歳で・・・・恋人? 臍が茶を沸かすわ。病院へ行った方がよそうね。帰宅したら、何処の病院が良いかネットで探して見ます」
大きな声でケラケラと笑った。周囲にいた数人の客が、迷惑そうな目で妻を見ていた。その時、妻の顔が醜く見えたのが不思議だった。

念願の白烏賊をゲットした妻は、嬉しくて仕方が無かったようだった。車中、始終浮かれていた。たかが烏賊の貧素な食べ物だった。しかし、これ程喜びを表す妻に驚いた。余程食べたかったのかと思うと、哀れさを感じた程だった。

あの日から二週間後、再び安売りを求めてスーパーへ行った。しかし、再び彼女に会えるかも知れないと思う淡い期待からだった。恋する老人になっていたが、適えなれない事は判っていたが、これも男の性だった。
この日は、特売か何かで、客の多さに驚いた。特売コーナーで品定めをしていると、

「袋要りますか?」

聞き覚えの声に振り返ると、あの彼女だった。しかし、この日もUniqloのワンピースを着用していた。その時も彼女に悪いが、着替えの洋服を持っていないのかと思った。だが、私がどれ程非常識な人間でも、彼女を傷つける様な事を言えるわけも無かった。ソッと心の中に終った。然も、その質素なワンピースが、不思議と彼女を魅せていた。

「貴女は、ヒョッとしてストーカー? でも、君だったらストーカーだろうと何だろうと歓迎するけど」
「有難う御座います。その様に言ってくれて、私嬉しいワ。でもストーカーでは御座いませんけど」

謙虚と言うか素直な姿が、私の心を揺さぶった。本当に今時の若い女性にしては、珍しかった。
その時、言うか言わらずべきかとハムレットの心境になっていた。年甲斐もなく喉が渇き、心臓は大きな音を出したが、持っている勇気を振り絞って、
「珈琲! おじ様、嬉しいですワ。丁度、喉が渇いていた所です」
私の誘いを待っていたような返事に、些か驚いた。その言葉は嬉しかったが、その様な顔を見せる事は出来無かった。私は高齢者の飢えた狼ではなかった。又、どれ程馬鹿でも、男の沽券に関わるような事を見せるわけにはいかなかった。しかし、心の中ではガッツポーズをしていた。

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