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私達は恋人の様に、肩を並べて喫茶店へ入った。しかし、それは私が勝手に思っていただけだった。何処から見ても親子だと思われていたのが、周りの目だった。
「珈琲で宜しいですか」
「ハイ。お願いします」

カナリヤの様な可愛い声の返事だった。思わず、この子が私の娘であれば、どれ程良かったかと思っていた。本当に素敵な彼女だった。
「おじ様、歳は何歳ですか? メチャ気になりますが」
珈琲カップを手に持った彼女は、笑みを浮かべて言った。然も、その時の彼女は、見れば見る程可愛い顔をしていた。
「君の質問は、私みたいな高齢者には失礼ですよ。イット、ザ、シークレット」
彼女はもう少しの所で口に入れていた珈琲を吹き出す所だった。

「本当に面白いおじ様」
その顔は優しさに満ち溢れていた。
「君の歳は?」
「まあ、年若い女性に歳を聞きますの。失礼なおじ様。想像にお任せします」
甲高い声でケラケラと笑った。

そして、
「おじ様の仕事は何をしていられますの?」
「僕の職業は恥ずかしくて言えませんが、明治時代、早稲田大を卒業した祖父は、代議士をしていました。しかし、金銭欲が欠如していた為に、国家国民の為に、財産を使い果たしました。その為、終戦時には破産してしまいました。父も昭和三十年まで、倉敷紡績西条工場で働いていましたが、何を思ったのか辞表を出してしまいました。そして、大阪へ引っ越して来て今の卑しい仕事に就きました。私も後を継ぎました」
蕩々と述べると、

「おじ様のお家は、大変な経験を為されたのですね」
少し悲しそうな顔を見せた。その顔から優しさが溢れていた。
「過去は良かったのですが・・・現在は貧乏をしています」
「当に巷で言う栄枯盛衰とは、この事を言うのですね」
彼女は再び悲しい顔を見せた。
「しかし、貴女は教養と栄養を兼ね備えた女性ですね」
「まあ、失礼なおじ様。私は太っていませんけど」

その時、不思議な事に彼女の顔が一瞬曇ったのが見えた。何か彼女の思いとオーバーラップした様に感じたが、その事を彼女に聞くわけにもいかなかった。
しかし、妻とは年齢の差が大きくあったが、同じ女性でもこうも違うかと思っていた。

凡そ三十分程雑談して別れたが、私の心の中に清々しさが残った。然も、彼女と会話をしていて、歳の差が有るが、抵抗無く会話が出来た。まるで、同年齢の女性と会話をしているような不思議な錯覚に陥った。

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