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妻は全く家計の状態を知らない様だった。平然としていたのが癪に障った。その態度にイラッとしたが、私は亭主関白では無かった。又、妻の恐ろしい顔に抵抗するだけの力も無かった。もしも、反故にするような事でも起きれば、家庭は悲惨な状態になる事が目に見えていた。これだけは、絶対避けなればならなかった。
ハムレットの状態になり、迷いに迷った揚げ句の果て、改装を決断した。だが、まだまだ使用出来る状態だと思っていた為。そして、工事が着工する日まで、本当に癪で仕方が無かった。心の中では、諦めてくれないかと神様に願っていた程だった。この時の私の心の中は、男らしさなど何処を探しても微塵も無かった。

更に、妻の足は速かった。ネットで近場の安価な業者数軒を閲覧していた。そして、一軒の最も安価だった業者に、見積もりを依頼してしまった。

その夜、見積書を確かめて納得した妻は、
翌日の午前中、
「台所の改装をお願いしたいのですが?」
電話を置いた後、モヤモヤしていたものが吹っ切れたようで、急に元気が出て来た。
数日後には、業者が来宅して妻と打ち合わせをしていた。しかし、私は蚊帳の外だった。業者もこちらの要求を飲んで両者が納得した。
そして、翌週の月曜日から工事をする契約を結んでしまった。然も、一家の長である私を蔑ろにしての事だった。この事でもむかついたが、私は為す術が無かったのが惨めだった。

前日の日曜日、改装の為に台所の水屋を移動する事になったが、水屋の中の食器や鍋を隣の六帖の部屋に移動する事になった。しかし、予想以上の食器類で、隣の六帖の部屋が、足の踏み場も無い状態になった。
「水屋の中にこんなに入っていたのか?」
部屋に置かれた陶器類に、私は目を丸くしていた。
「本当ね。明日から陶器屋が出来そうね」 鬼嫁までが驚いていた。
工事が始まったが、ライフラインの水道と瓦斯も止められたが、電気は通じていた。しかし、私の家はガス釜なのでご飯も炊けなくなった。出前を依頼すれば、出費が多くかかる為に、何処かのスーパーで安価な弁当で、用足しするしか無かった。しかし、自宅近辺のスーパーは規模が小さかった。私達夫婦は共に極度の偏食だった。妻は肉は駄目だった。私は魚が駄目だった。世間一般の弁当では、私達が欲している様な弁当は、手に入らなかった。

その為、妻と相談して格安が売りの大型スーパーへ、買い出しに行く事を決断した。然も、買い出しに行くのは、妻ではなく私だった。目的のスーパーは自宅から距離が結構有った為に、車でしか行けなかった。更に寒中の為に、妻が自転車に乗って三食のご飯を買い出しに行く事は、酷な仕事だった。

もしも、無理して自転車で行くのであれば、買い物を終えて帰宅すると、妻の素晴らしい体重は、大幅に減っていた筈だった。私が購入しに行こうとしていたこのスーパーは、格安、安全、安心と言う謳い文句で有名な店だったが、真実の所は判らない。最近、中国産の食品を国産と偽っている店が、多々有った為に、信じる事出来なかった。しかし、私達消費者は、店舗の道徳を信じて、産地を知るしか打開策は無かった。
妻と子供達の為に、ご飯と多くの総菜をスーパーの籠一杯買い求めた。そして、特売のコーナーに行くと人だかりだった。最近は、不況の為に多くのスーパーでは、この様な風景が時々見られていたが、数円しか他店と差が無いのだが、私には異様な風景に見えた。

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