「私・・・私が・・・その・・・・その女性です」
目に涙を蓄えて彼女は言った。しかし、亡くなった女性が目の前に居る事に、私は理解出来なかった。冗談にしては、質の悪い冗談だと思っていた。
「アホな事を言うなよ。君は私の前にいて、今、楽しく会話をしている。きつい冗談を言わないで欲しい」
「おじ様・・・・信じて下さい。その亡くなった女性は・・・私・・・・私ですのよ」
彼女はお腹の底から絞り出すように、言葉に詰まりながら言った。
「アホな事を言うなよ。君は僕の目の前にいるぞ!」
私の頭の中は混乱してきた。歳も歳だから痴呆症が出てきたのかと思った。そして、彼女の顔を見つめていると、
「私・・・おじ様に会えて本当に嬉しかった。もう、この世に思い残す事は無くなりました。短い時間でしたが、本当に有難う御座いました」
話が終った後、私の前に座っていた彼女の姿が煙のように消えさった。私はその現象に痴呆のように口をポカンと開け、完全に自分を見失っていた。
「お客様! お客様! どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
ウエイトレスに言われて我に返ったが、何事が起きたのか理解出来なかった。
数秒後、
「先程まで私の前に座っていた女性は、何処へ行ったのか知っていますか?」
ウエイトレスに訊ねると、
「エッ・・・お客様が、店内に来られた時からお一人でしたけど」
鳩が豆鉄砲を食らったように、珈琲コップを持ったまま、唖然としてしまった。
※画像はイメージです。
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